スイスのユナイテッド銀行からC公国の国立銀行に20億ドルの預金が移されたのは、その1週間後のことだった。
氷河と瞬が恋に落ちるか否かで、キド翁とカミュの間で20億ドルの賭けが為されており、カミュがその賭けに見事に勝った事実を氷河が知らされたのは、更に2日後のこと。
もちろん それは譲渡や贈与ではなく、単に資金の預け先を変更しただけのことだったのだが、20億ドルの資金流入は、C公国の財政危機を救済するには十分すぎるほどの外貨だったのである。

「私はおまえの好みを熟知しているんだ。可愛い甥の幸福と多額の資金を同時に手に入れた私は、史上稀に見る賢君だとは思わないか?」
カミュは、悪びれた様子もなく“可愛い甥”にそう言ってのけた。

彼がクールなのか人情家なのか、そして、彼が瞬の性別を知っているのかどうかを、氷河はあえて確かめようとは思わなかった。
少なくともキド家の当主はそれを知っていて、だからこそ勝てると考え、その賭けに乗ったのだろう。
そして彼は見事に賭けに敗れたのだ。
カミュこそが勝者であることだけは疑いようのない事実であり、氷河と瞬の恋がC公国を救ったこともまた、動かし難い事実だった。

かくして、欧州の北の片隅で長い独立を守ってきた小国は、若い二人の無謀ともいえる恋によって国家存亡の危機を回避し、八百年の独立を更に保ち続けることになったのである。






Fin.






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