――とまあ、そういったことを決めてから、神様たちは、死んだ者を神々の法廷に呼び、彼に神々の決定を言い渡しました。 「君は、これから1週間の期限つきで生き返ることになる。これは我々神々の、まあ言ってみれば、君への慈悲のようなものだ。ただし、その間、君は、自分の感情に関して決して真実を言ってはならない。言葉や文字や手話、その他の意味を持つ暗号や信号等、あらゆる広義の言語で、自身の心や感情に関したことで真実を口にした時、君の命は即座に消え、その瞬間に君の地獄行きが決定する」 「……」 神様たちの苦衷を知らないアテナの聖闘士は、なぜ神様たちが自分にそんな“慈悲”を垂れてくれるのかと、怪訝に思いました。 生き返ることの見返りに何らかの仕事を言いつけられるのかとも思ったのですが、どうやらそういうことでもなさそうです。 神々の決定を訝る彼に、神々は重ねて言いました。 「生きている者たちは、一時的に君の死の事実を忘れているから、君は生きている者として彼等と普通に接することができる。君の死は本当に突然のことだったから――最後にもう一度会っておきたい者もいるだろう? 残してきた人たちに しておきたいことや言っておきたいことも色々あるのではないかな?」 それはもちろんあります。 ありすぎるほどありました。 けれども――。 「決して真実を言ってはいけない“感情に関すること”とは、具体的にはどんなことです」 「それは、たとえば、『楽しい』『悲しい』『嬉しい』『寂しい』『怒りを感じている』――そういったことだ。もちろん、『好き』や『嫌い』も駄目。当然、『愛している』も駄目ということになるな」 「――」 それでは生き返っても何にもならない。 それこそが最も重要な伝言で、生きている人に何よりもまず伝えたいことなのに、その肝心のことを伝えることができないのでは生き返ること自体が無意味ではないか――と、俺は思いました。 神様たちの意図が理解できなかったアテナの聖闘士は、一度は神様たちの提案を拒むことも考えたのです。 けれど彼はすぐに思い直しました。 彼には生者の国に会いたい人が――どうしても もう一度会いたい人がいたのです。 ですから、結局、アテナの聖闘士は、神様たちの提案をいれ、生者の世界に期限つきで戻ることにしたのでした。 氷河は、瞬のもとへ。 瞬は、氷河のもとへ。 二人は共に 同じ戦いで命を落としたのですが、氷河は瞬が死んだことを知らず、瞬もまた 氷河が死んだことを知りませんでした。 |