瞬王子がゴールドランドの氷河のお家での暮らしに慣れるための楽しい努力をしていた頃。 ブロンズランドのお城にいる瞬王子のお兄様は、最愛の弟を失ったことにショックを受け、ほとんど腑抜け状態で日々を過ごしていました。 牢に閉じ込めていた氷河までが その姿を消し、大捜索隊を動員して国中を捜させたにも関わらず、二人の行方は ようとして知れません。 二人はあるいは実らぬ恋に絶望して心中してしまったのではないかと、瞬王子のお兄様はそんな最悪の事態を考えるまでになっていたのです。 戦争なんて非生産的なことにかまけて最愛の弟を放ったらかしにしておいたことを、瞬王子のお兄様は心から悔やんでいました。 瞬王子の命がないのでは、戦いになんか 何の意味もありません。 戦いに勝利しても、得られるものは何ひとつないのです。 瞬王子がいなくなって初めて、瞬王子のお兄様はその事実に思い至りました。 黄金のリンゴを手に入れるなんていう名誉より、瞬王子の側にいて愛してやることの方がどんなに有意義で大切なことだったのかを、瞬王子を失って初めて、瞬王子のお兄様は思い知ったのです。 ゴールドランドとブロンズランドの間に和睦の約束が成ったのは、それからまもなくのことでした。 和平条約調印のためにゴールドランドのお城にやってきた瞬王子のお兄様が、そこで、生きて元気にしている瞬王子の姿を見い出した時の喜びようといったら! 瞬王子のお兄様は、最愛の弟の身体を強く抱きしめ、人目もはばからずに号泣して、瞬王子に謝ったのです。 「兄が悪かった。おまえが世界でいちばん美しいことは、誰が認めなくても、俺が知っていればいいことだったのに! おまえが死んでしまったら、リンゴを貰えても梨を貰えても何にもならないというのに!」 瞬王子は、自分の犯した過ちを認め反省している人を責めることのできるような王子様ではありませんでしたから、もちろんすぐに一生懸命 お兄様の涙を拭いてあげましたよ。 そして、瞬王子は、瞬王子のお兄様に言ったのです。 「おリンゴは半分こすればいいの。梨もオレンジも、僕は氷河と半分こするって決めたの。だから、これからは みんな仲良くしましょう」 ――って。 命あっての恋。 命あっての美しさ。 平和も、肉親の愛情も友情も、喜びも、悲しみ・苦しみさえも、生きているからこそ、人間は享受し、感動することができるのです。 その限りある大切な命の時間を、すべてを我が物にしようとして傷付け合って過ごすなんて、本当に馬鹿げたことです。 一つしかないリンゴは、半分こすればいいのです。 そうすれば、与えることの喜びと与えられることの喜びが、半分になったリンゴを100個のリンゴより価値あるものにしてくれるでしょう。 瞬王子と氷河王子は、ブロンズランドの民とゴールドランドの民と共に、そんなふうにして いつまでも幸せに暮らしました。 賢明で楽天的で前向きな瞬王子の侍女たちは、もちろん この結末に大変満足したということです。 Fin.
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