その夜、すべては丸く収まり、あの銀色がかった瞳をした氷河は、氷河の中から消えてしまったらしい。 翌朝 星矢たちが出会ったのは、晴れ渡った夏空のように青い瞳をした氷河だった。 「地上で最も清らかだから手を出せないって苦悩してたわりに、目一杯やりまくって さっぱりした顔だぞ、あれは」 熱愛していたものを手に入れて、その幸運が信じられず、地に足がついていないような氷河の様子を見て、星矢が腹立たしげにぼやく。 氷河の顔は、『目一杯やりまくって さっぱりした顔』というより、『目一杯やりまくって 更に募った恋心を持て余している男の顔』だったのだが、紫龍はあえてその点を指摘することはしなかった。 「まあ、いいじゃないか。これで地上の平和も保たれるんだろう? 星矢の希望通りだ」 「地上の平和? ああ、そういや そんなこと言ってたっけ、俺」 無責任にも星矢は、彼があれほど瞬に力説していた平和論を すっかり忘れてしまっていたらしい。 そして、そのことに、星矢は全く罪悪感を抱いていないようだった。 そんなふうに無責任を極めている星矢が、ややあってから、ふと思いついたように口にしたのは、自身の無責任についての反省の弁ではなかった。 「氷河と瞬がくっつかなかったら地上の平和が保たれないってのは冗談だけどさ……。なんつーか、こう――蝶よ花よと育ててきた愛娘をさ、どうせ嫁にやらなきゃならないんなら、見知らぬ男にかっさらわられるより、自分が選んできた男に任せたいっていう父親の気持ちがわかるっていうかさ、できるだけ自分の側に置きたいっていうかさ。俺も大概 我儘なんだけど、俺たちは仲間のまま、ずっと一緒にいたくて、そのためには瞬に他の誰かとくっつかれちゃ困るんだ――嫌だったんだ。変だよな、こんなの。世の中には氷河よりましなのがいくらでもいて、瞬は よりどりみどりで その中から好きなのを選べて、瞬にはもしかしたら、その方がよかったのかもしれないのに、なのに――」 なのにどうしてだろう。 「 そのために どたばたを繰り返し、ついに迎えたこの日この時。 星矢にしてみれば、我儘で自分勝手な彼の願いはついに叶った この日この時――ということになる。 四方すべてが丸く収まり、めでたしめでたしの大団円。 星矢の願いを叶えてくれたのは氷河と瞬で、この結末に星矢が責任を負うようなことは何一つない。 この結末に満足しつつ、それでも――星矢の中には、本当に これでよかったのかという思いが 消し去り難く残っているのだった。 そんな星矢に、紫龍が意味ありげな微笑を向ける。 意味ありげに微笑して、彼は、これまで散々 繰り返してきた あのセリフをもう一度口にしたのだった。 「奇遇だな。俺もだ」 Fin.
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