気付いた時、二人は朝の光の中にいました。 希望に似た光の中で瞬の姿を見、瞬を感じていられることは 何という幸福だろうと、氷河は心から思ったのです。 「瞬。ずっと俺の側にいてくれ」 「うん……うん……」 泣きじゃくりながら幾度も自分の胸の中で頷く瞬を、氷河はしっかりと抱きしめました。 そして、その時、氷河は、彼の母の声を聞いたような気がしたのです。 『嬉しいわ、氷河』 その声は、とても幸福そうな色と響きを帯びていて、氷河の決めたことを祝してくれているようでした。 それは空耳だったかもしれませんし、そうでなかったかもしれません。 いずれにしても、それは、氷河が『俺のマーマなら そう言うだろう』と思っていた通りの言葉でした。 ですから、氷河は、その言葉が母の心だと信じることにしたのです。 その日を境に、氷河からは、金銀の神を見る力が消えてしまいました。 もちろん お金持ちのお客をとることもできなくなりましたから、氷河は今では毎日 瞬と一緒に教会に通って、腕白な男の子が壊してしまった椅子の修理や、お転婆な女の子がボールをぶつけて割ってしまった窓ガラスの入れ替えをしたりしています。 誰かに ふざけて、 「俺はまだしばらくは生きていられそうかい」 と尋ねられると、氷河は、 「大切な人がいるなら、その人のために生きていたいと願い続ければいい」 と答えるのです。 いつも 彼の側にいてくれる瞬の瞳を見詰めながら。 Fin.
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