「アンドロメダ、君に氷河抹殺を命じる」 瞬にそう告げたのは、氷河の師である水瓶座アクエリアスのカミュ その人だった。 あまりに思いがけない その言葉。 彼の言葉を聞いた その瞬間、瞬は、 瞬が呼びだされた場所は、聖域の教皇の間がある建物の一室。 かろうじて言葉の意味だけを理解した瞬は、混乱する思考の中で、それがアテナの命令でないことだけは察することができた。 ここはアテナ神殿ではないのだ。 が、アテナの命令ではないからといって、それは容易に拒否できるものでもない。 アテナ神殿ではないにしても、ここは聖闘士たちを統べる教皇の御座所ではあるのだ。 その意味するところは、つまり、カミュの命令は、一黄金聖闘士の命令ではないということだった。 「ど……どうしてそんな……。どうしてあなたが……」 カミュは氷河の師ではないか。 瞬には訳がわからなかった。 だが、彼がそんなことを言い出したのは、彼が氷河の師であるからこそ――だったらしい。 彼は、苦渋に満ちた表情で、彼の言葉を継いだ。 「それは……アンドロメダ、これは絶対に他言無用だぞ」 「は……はい……」 「実は、氷河には公にできない恋人がいるらしい。その恋がどうやら道ならぬ恋のようなのだ。許されぬ恋、認められない恋。だが、氷河は本気らしい。そして、氷河は、その恋を許さず認めない世界というものに憤りを感じ、反発を覚えているらしい。あげく、自分の恋の成就を許さぬ 現在ある世界の転覆までを望み、そういった陰謀を謀る者共に加担して 聖域を裏切り、いずこかの邪神に内通するところまで思い詰めてしまったらしいのだ。師として、弟子の裏切りを看過するわけにはいかない。そこで、仲間である君に氷河抹殺を命じることになった。これは黄金聖闘士全員の総意だ」 「まさか、氷河がそんな……氷河がアテナを裏切るなんてありえません」 「確かな情報なのだ。……では、君ですら氷河の恋人の存在を知らなかったのか？」 「え……あ、あの……はい」 氷河の恋人の存在を全く知らないというわけではなかったのだが、瞬は今は ためらい、どもり、ぎこちなく、氷河の師に頷くしかなかった。 「そうか。幼い頃から同じような境遇で育ち、命をかけた戦いを共にしてきた君たちにも知らせていないとは、いったい氷河の恋は どれほど人倫にもとるものなのだろうな……」 「あの……氷河は僕が説得します。ですから、抹殺なんてそんなことは――その命令だけはなかったことにしてください」 瞬の切願に、カミュが苦しそうに首を左右に振る。 瞬は、氷河の師であるカミュの情に訴えようとしたのだが、カミュは、自分が氷河の師であるからこそ、この件に関しては厳しく対処しなければならないと考えているようだった。 「それはできない。アンドロメダ、これは……これでも寛大な処置なのだ。氷河はアテナを裏切ったのだぞ。幼稚園児のいたずらではあるまいに、『説得されました。反省してます、ごめんなさい』で許されることではない。私とて弟子の抹殺を命じることは悲しく苦しい。だが、だからこそ、氷河の師である この私が、氷河の仲間である君に指示を与えることになったのだ。氷河の名誉とアテナの名誉を守るために、すべては極秘裏に済ませたい。氷河の裏切りは、アテナにも知らせていない」 「あ……」 悲嘆にくれるカミュを見て、瞬は返す言葉を見付け出すことができなかった。 だが、頷くこともできず――瞬は無言で その場に立ち尽くすばかりだったのである。 |