ベッドに身体をおろされ、身体を身体で押さえつけられ、長いキスをされた。
こんなに近くで他人と触れ合うのは、もちろん僕には初めての経験だった。
氷河は、手の平も、指先も、唇も頬も舌も熱い。
その氷河の指が 僕のジャケットのボタンを外そうとしていることに気付き、僕は氷河の熱とキスが作り出す陶酔の中から 一瞬で現実に引き戻された。
氷河は、あの――キスの先にある、あのことをしようとしているの?
化け物で、同性の僕に?
そんなことができるの?
そんなこと、できるはずない。
危険すぎる。

「氷河、やめて。僕、氷河の身体をへし折っちゃう」
「多分、大丈夫だ」
「でも……でも、氷河……」
「大丈夫だ。瞬、愛している」
ああ、だめ。
僕は、氷河の声に抵抗できない。
氷河の指に抵抗できない。
氷河のキスに抵抗できない。
直接 肌に触れる氷河の愛撫が気持ちいい。

「ああ……!」
初めて触れる人の肌。
氷河の脚が僕の膝を割り、氷河の手に肩を押さえつけられて、僕は氷河から逃げられない。
身体のあちこちに氷河の熱を感じて、気が遠くなりそう。
目を開けていられなくて、でも 閉じるのは恐くて、どうすればいいのか わからない。
氷河の唇や指は、僕には信じられないようなところにまで平気で触れて、平気で侵入してくる。
僕は、羞恥と恐怖のせいで混乱していた。

「ああ……そんな……そんなとこ……」
ほんとは、氷河の肩でも背中でも腕でも、どこでもいいから、力いっぱい しがみつきたい。
そうすることが出来たら、氷河が突然消えてしまうことを恐れずに、僕は固く目を閉じることもできる。
でも、そんなことをしたら、いくら力が弱まっているっていったって、僕の手と腕はきっと――。
「あああああっ!」
氷河の唇が 僕の首筋に吸いつき、氷河の指が僕の身体の内側を撫でている。
それ以上、シーツの上に腕を投げ出しておくことに耐えられなくなって、僕は氷河の首と背中に手をまわし、すべての指に力を込めた。

「あ……」
氷河はきっと 苦痛の呻き声をあげると思ったのに、呻き声どころか、氷河は僕に、
「もう少し膝を曲げて、腰を浮かしてくれ」
なんて、訳のわからないことを言ってきた。
「ひょ……が、平気なの? 僕の手……平気なの?」
「当たりまえだ。そんな細い腕で、俺の身体を へし折れるはずがないだろう」
「あ……」
本当に、まるで平気そうな声で 氷河がそう言うから、僕は嬉しくて、両腕で力いっぱい氷河に抱きついて、そして 氷河を抱きしめた。

「いや、そうじゃなく、膝をもっと――」
「ああ、氷河、氷河、僕、嬉しい……! 僕、氷河を抱きしめてる……!」
「ああ、そうだ。だから、もう少し脚を――」
「氷河、大好き……!」
僕は多分、氷河にとって あんまり“いい子”じゃなかったと思う。
でも、僕は、できるだけ氷河の言う通りにしようとしたよ。
いろんなところに触られて、身体の向きを急に変えられても 大人しくしてたし、身体を開かされ、すべてを見られても恐がらなかったし、逃げようとしなかったし、愛撫やキスだけで恥ずかしいほど取り乱して、幾度か軽い失神さえしたけど、そのたび 懸命に氷河のいるところに戻ってきた。
氷河が僕の中に入ってきた時には、僕は既に、氷河と触れ合う快楽のせいで、痛みを感じる感覚が麻痺していたと思う。
ただただ嬉しいだけの声をあげて、僕は氷河を抱きしめ、氷河を受けとめた。






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