「彼等の“神”の正体を探るためにも、生きたまま、口のきける状態で捕えてほしいと、私は言ったつもりだったのだけど、私の声が あなたたちには聞こえていなかったのかしら? 私の指示に従ってくれたのが瞬だけだなんて……」 アテナ神殿の広間には、神殿の主の嘆かわしげな声が響いていた。 星矢、紫龍、氷河が返す言葉もなく――だが、物言いたげな目で、彼等の女神を視界に映している。 彼等はアテナの命令に従ったのだ。 ただ、その命令を遂行できなかっただけで。 かろうじてアテナの命令を成し遂げることのできた瞬は、すぐに――だが、少々 遠慮がちに――仲間の弁護を試みることになった。 「みんなのせいじゃないんです。聖域に侵入してきた人たちが普通の人間だということは わかっていたから、星矢たちは、もうそれこそ 友好国の賓客を出迎えるみたいに丁寧に、アテナ神殿に来てほしいと彼等に頼んだんです。けど、彼等は、僕たちの力を見て恐怖にかられてしまったようで、持っていた短剣で自死してしまったんです。僕たちに捕えられて、拷問でもされると思ったのか、彼等は『悪魔の力に屈して主を裏切るわけにはいかない』と言ってました。『裏切ることになる前に死ぬ』って。あの人たち、ひどく狂信的で……。僕はたまたま 理性が勝った人に当たったんだと思います。それに僕にはチェーンがあったから、それで剣を奪って、彼が馬鹿なことをするのを止めることができたんです」 「自死……瞬のチェーンで武器を奪われた者以外全員が?」 アテナの聖闘士が、結果的にとはいえ、アテナの命令に背くことになったのである。 そこには よほどの事情があったはずと、アテナも察してはいたのだろう。 だが、それは、侵入者たちが ただの人間にあるまじき力を有していたためか、不慮の事故によるもの――程度のことと、彼女は考えていたに違いない。 瞬の報告を聞いて、アテナは 僅かに その頬を青ざめさせた。 アテナより白い頬をして、瞬が彼女に頷く。 「彼等、命を何とも思っていないようで恐かった……」 地上の平和と安寧、そして多くの人々の命を守るために 敵の命を奪うこともあるだけに、瞬は――アテナの聖闘士たちは――命の重さを知っていた。 それを いともたやすく――まるでオレンジの種でも吐き捨てるようにあっさりと放棄する者たちの姿を見せられ、瞬は尋常ではない衝撃を受けたのである。 瞬が そのチェーンで武器を取り上げた男の周囲で、人間が ばたばたと自ら血を流して倒れていったのだ。 氷河に支えてもらえなかったら、自分は あの時 おそらく一人で立っていることができず、彼等と共に倒れてしまっていたに違いないと、瞬は思っていた。 「彼等をあんなふうに狂わせている神って……」 「人間に、そこまで命を軽んじさせる者を神とは呼びたくないわ」 瞬の呟きを、アテナが断固とした口調で否定する。 それから彼女は、おそらく 気を取り直すために、一つ深呼吸をした。 「とにかく一人は死なせずに済んだのね。今、どこにいるの」 「教皇殿の部屋に。拘束もしていませんし、もちろん乱暴もしていません。僕たちから逃げることは不可能と悟っているようで、静かにしています。『自分には やらなければならないことがあるから死ねなかったんだ』って、まるで誰かに弁解するみたいに呟いていました」 「やらなければならないことがあるから死ねなかった? それが ただの言い訳で、本当は死ぬことが恐かったから死ねなかったのであれば いいのだけど……。その人を連れていらっしゃい。私が直接会って話を聞いてみるわ」 あまり期待は持てないと言いたげな口調で、アテナは彼女の聖闘士たちに そう命じた。 |