私には、もう時間がない。 だから、アテナの聖闘士のことを語っておこう。 人間世界の平和を守るために 女神アテナを奉じて戦い続け、しかし、ついに自らの望む平和な世界を手に入れることなく死んでいった、哀れなアテナの聖闘士たちのことを。 彼等は、不遇の中に生まれた。 そして、人間世界に迫る危機のことなど知らずに安穏と生きている人々を守るため、命をかけて戦い続けた。 彼等が頼れるものはただ、己れ自身の力。 共に戦う数名の仲間たち。 他には、戦いの女神アテナの加護があるだけ。 彼等の命がけの戦いを、彼等に守られている大多数の人間は知らなかった。 彼等は、人間世界と そこに住む人間たちを滅ぼそうとする者たちとの戦いに勝利しても 誰からも褒めてもらえず、その戦いに敗れ 自らの命を失うことになっても、誰からも悲しんでもらえなかった。 彼等の数名の仲間と女神アテナの他には誰からも。 それは、彼等が生きていた時から わかっていたこと。 そう。彼等は すべて わかっていた。 自分たちの望みが叶わないこと。 人間世界から争いがなくなる時は永遠にこないこと――それは永遠に“いつかの日”にくるものでしかないこと。 自分たちの戦いが空しいものであること。 自分たちの命が無意味なものであること。 それらをすべて知っていながら、にもかかわらず、彼等は戦い続けた。 いったい何のために? いったい誰のために? 彼等は、自分たちの戦いや命が空しいものであることを知りながら、その事実を見ないようにしていたのか。 それとも、あえて気付かぬ振りをしていたのか。 だから、望む結末が訪れないとわかっている戦いを戦い続けることができたのか。 その答えは、彼等が死んでしまった今となっては誰にもわからない。 私にも わからない。 彼等自身とて、その答えを知っていたかどうか。 ――自分が何のために戦い、誰のために死んでいくのか。 その本当の答えを、彼等は知らなかっただろう。おそらく。 だが、それは、アテナの聖闘士たちに限ったことではない。 人間は皆、その答えを知らずに自らの生を生きているのだ――生きていたのだ。 自分が生まれてきた理由、なぜ生き続け、戦い続けるのか。 そして、なぜ、いつかは その身体も心も消えていくのか。 人間は誰も その答えを知らない。 運命の女神である この私ですら、その答えを知らないのだから。 私は、私がなぜ 運命の女神として生まれてきたのかを知らない。 神ならぬ身の人間であれば、なおさら その答えを知る者はいなかっただろう。 なぜ彼等は、空しい戦いを戦い続けたのか。 なぜ彼等は、彼等の戦いを戦い続けることができたのか――。 |