その宣言通り、金銀の神は、それから しばしば城戸邸内に姿を見せることになった。 冥界から人間界にやってくることは 神の力で為せるようだったが、アテナの力と意思で包まれている城戸邸内では、彼等は 神としての己れの力を発揮できないらしい。 彼等は、現われる時は唐突だが、その後の邸内での彼等の行動は 人間のそれと さほど変わりのないものだった。 神の力とやらで妙なことをされては困るというアテナの聖闘士たちの懸念は、その点では 確かに杞憂に終わった。 ――のだが。 アテナの聖闘士たちとの親睦を図りたいと言っていたにもかかわらず、一向にアテナの聖闘士たちとの接触を持とうとせず、人間界にやってきては、ただ のんびりと城戸邸内を散策してばかりいる二柱の神は、決して アテナの聖闘士たちの心を安んじさせてもくれなかったのである。 アテナの聖闘士たちは、毎日ただ邸内を歩き回っているだけの彼等の狙いがわからず、ひどく落ち着かない気分で、身近に敵のいる日々を過ごすことになってしまったのだった。 「胡散臭いっつーか、鬱陶しいっつーか……。親睦を深めるんでも 悪事をするんでも 何でもいいからさ、さっさとやることやって、早いとこ 自分のテリトリーに帰ってほしいんだよな、俺は」 彼等が 敵なら敵で構わない――というのが、星矢の考えのようだった。 味方なら味方らしく振舞え――というのが。 敵にしては攻撃的でなく、味方にしては アテナの聖闘士たちと親しもうという努力を見せない、どっちつかずの男たち。 彼等が 目的のはっきりしない怪しい行動を続けていることが、星矢は どうしても気に入らないらしい。 アテナの敵なら敵、味方なら味方、善行なら善行、悪事なら悪事。 とにかく白黒をはっきりさせて、白黒がはっきりした行動をしてほしい。 それが星矢の望みのようだった。 白か黒か、正義か邪悪か、『0』か『1』か。 綺麗に割り切れないこと、綺麗に分けられていないことが嫌いで、現状に苛立っている星矢を、瞬と紫龍が なだめにかかる。 「神様って、永遠の命を持っていて、滅多なことでは消滅しないんでしょう? 彼等は 時間があり余ってるから、僕たちとは時間の感じ方が違って 気が長いのかもしれないよ」 「アテナの力に封じられて、いわゆる神の力を使えないのは事実のようだから、気に入らないのなら無視していればいいんだ。いちいち律儀に意識してやることはない」 「毎日 すぐ目の前をふらふらしてやがる男共を無視できるかよ!」 それができたら苦労はないと、律儀な星矢は 大声で紫龍に反駁してきた。 「ならば、しばらく聖域に行っていたらどうだ? あの二人の魂胆がわかったら、日本に戻ってくるよう連絡を入れてやろう」 「あんな、見るからに怪しい奴等が城戸邸を毎日うろついてるっていうのに、のんきに聖域なんか行ってられるかよ!」 白黒がはっきりしない この状況に 結局自分は耐えるしかないのだと、それは星矢もわかっているらしい。 わかっているからといって、不満を口にせずにいることはできない――というだけで。 では、星矢の仲間たちには、星矢のためにしてやれることは、(今のところは)何もない。 アテナの聖闘士たちは、結局そういう結論に辿り着くことになった。 星矢の不満や苛立ちは処置なし――ということに落ち着くと、紫龍は、それまで仲間たちのやりとりに加わろうとせず、ひたすら沈黙を決め込んでいた氷河の方に向き直った。 「氷河。おまえは、俺たちとはまた違った意見があるようだが」 タナトスとヒュプノスが城戸邸内を徘徊するようになってから、氷河はずっと機嫌が悪かった。 星矢のように声に出して不満をぶちあげないだけで、もしかしたら氷河は、星矢以上に金銀の神たちを不快なものと感じていたのかもしれなかった。 その推察を裏打ちするように、紫龍に問われた氷河は、不愉快な気分を懸命に押し殺しているような声で、仲間の問い掛けに答えてきた。 「最初にアテナに面会を求めてきた時、奴等が 妙に瞬のことを気にしていたように見えたんだが」 「瞬を気にしてるのは おまえの方だろ」 氷河のその言葉を聞いた星矢が笑いながら そう言ってきたのは、彼の中に、『何でもいいから金銀の神以外のことにかまけていたい』という気持ちがあったからだったかもしれない。 不愉快な気分を忘れるために、鬱陶しい二柱の神の存在を できるだけ無視しようと、星矢は決意したようだった。 だが、そんな星矢とは逆に――氷河は、不愉快だからこそ、二柱の神への注意を怠らないようにしようと思っていたのである。 実際、ハーデスの従神だという二柱の神の行動は、無視を決め込むには怪しすぎるものだったのだ。 二柱の神の不審な行動。 その訳を探る端緒を最初に見付けたのは、当然のことながら、アテナの聖闘士たちの中で最も彼等の行動に注意を払っていた白鳥座の聖闘士だった。 |