そうして、ついに実現したカリステー王国の一輝国王とティラシア王国の氷河国王の対面。
瞬王子は無事でいるという星矢の報告に 一輝国王は安心したようでしたが(さすがに『幸せでいる』とまでは、星矢には報告することができませんでした)、一輝国王と氷河国王の初対面の初対談は、とんでもなく険悪なものでした。
そして、とんでもなく低次元なものでした。
『瞬王子は無事』という報告を受けて心を安んじた一輝国王は、その目で憎々しげに氷河国王を睨むと、『こんにちは』も言わずに、氷河国王を怒鳴りつけ始めたのです。

「俺は、初めて会った時から、貴様が気に入らなかったんだ! ガキのくせに、瞬にぽーっとなって、隙を突いて近付いて、色目を使って――。いったい、あの時、貴様は幾つだったんだ!」
「8歳になっていたかな? あの頃から瞬は可愛かった」
「あの時から、貴様は可愛くなかった。瞬を変な目で見やがって、このマセガキ!」
「貧弱な修辞だな。恋する瞳と言ってくれ」
「黙れ、この スカポンタン! ええい、貴様の そのツラを見ているだけで虫唾が走るわっ!」

最初のうち、星矢は、一輝国王と氷河国王が何を言い合っているのかが、まるでわかりませんでした。
けれど、やがて星矢は気付いたのです。
氷河国王と一輝国王は、これが初めての対面ではなかったのだということに。
否、氷河国王と一輝国王の対面は これが初めてでしたが、彼等がまだ王子だった頃、二人は既に出会っていたのだということに。
そして、一輝国王がティラシア王国の国王を毛嫌いするようになった理由は、10年前の二人の初めての出会いにあったのだということに。
気付いて、星矢は、慌てて二人の間に割り込んでいったのです。

「ちょ……ちょっと待てよ、一輝。じゃあ、何か? つまり、国益とか、王家の立場とか、不幸な先代の国王たちの病死とか、国民の意思とか、その他諸々 いろんなことを鑑みた結果っていうんじゃなく、おまえは 単に氷河個人が気に入らないから、カリステー王国とティラシア王国の統一を嫌がってたってのか?」
「他にどんな理由がある。こんな奴の治める国が まともな国であるわけがない!」
一輝国王の断言に、星矢は あっけにとられてしまいました。
天上の神々も ご照覧あれ。
この地上世界に、これほど馬鹿馬鹿しい、これほど矮小な国際紛争があったとは。

1000年前の出来事、長い対立の歴史、国益、両王家の立場と体面、先代国王夫妻の死、神々の思惑、国民の意思。
様々なことが複雑に絡み合って、二つの国の統一は困難を極めているのだと思っていたのに、実は、二つの国の統一が実現しないのは、二人の男の極めて個人的な いがみ合いのせいだったのです。
その事実を知った時、星矢の中にあった一輝国王への同情心は 綺麗さっぱり消え失せてしまいました。
一輝国王も氷河国王も好きなだけ ののしり合っていればいいと、彼は思ったのです。
ただし、他人を巻き込まずに。

そんな低レベルの言い争いを いつまでも聞いていたくはなかったので、星矢はすぐに 二人の国王が醜い言い争いをしている部屋から退散しました。
いろんなことが馬鹿らしくて、星矢は真面目に二人に付き合っていられなかったのです。


それからカリステー王国とティラシア王国がどうなったのかは わかりません。
“歴史の父”ヘロドトスも、『ギリシャ史』を著したクセノポンも、二国の記録を残してはいませんから。
きっと偉大な歴史家たちは、ギリシャの歴史的大恥を後世に伝えたくなかったのでしょう。
ただ、巷間には、カリステー王国の一輝国王は、49艘の船はティラシア王国に返還しましたが、その死の時まで 50艘目の船の建造命令を出さなかったと伝えられています。
愛する者の幸福のため、人は切ない愛を示すことがあるのです。






Fin.






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