聖域からレオブルク公国まで、聖闘士の足で走れば2日とかからないんだが、謹厳実直使者殿が一緒だったから、俺は 馬車での旅を余儀なくされた。
馬車がレオブルク公国に向かって走り出してからも、俺は その馬車の中で、往生際悪く 魔性の化け猫退治をせずに済む方法を考え続けていた。
で、勤勉実直使者殿に、
「アジールなんて治外法権をなくしたい公爵の意図はわかるし、貧しい子供を庇う聖人の気持ちもわかる。どちらにも正義はある。理もある――と思う。カイザーを動かしているのは嫉妬。本音を言えば、俺は、化け猫を退治するより、公爵には奥方と励んでもらって、子供でもこしらえて、猫への愛を子供に注ぐようにすればいいんじゃないかと思うんだが」
なんて提案をしてみたりもしたんだ。

だが、勤勉実直使者殿の返事は、
「公爵様は独身です。なにしろ猫最愛ですので」
という、救いのないもの。
つまり、レオブルク公国の公爵に 奥方と子作りに励んでもらうにしても、猫が邪魔だということだ。
「最悪な野郎だ」
まったく最低最悪な野郎だ。
猫最愛の公爵も、浮気性の化け猫も、アテナの命令に逆らえず 化け猫退治に向かう この俺も皆、最低最悪。
俺は、観念するしかなかった。






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