瞬の氷河が日本に――瞬の許に――帰ってきたのは翌日の午後だった。 彼は 本当にあれからすぐ、取るものもとりあえず飛行機に飛び乗り 帰国の途に就いたものらしい。 黒猫の氷河の言った通りだったので、瞬は 氷河の迅速極まりない対応が楽しくてならなかった。 「おかえりなさい!」 「あ、いや……」 笑顔全開で迎えられたことに、少なからず戸惑ったように、氷河が その唇を微妙に歪める。 僅かに気まずげに視線を横に逸らし、氷河は瞬に尋ねてきた。 「おまえの様子が いつもと違っていたから……。猫がどうこう言っていたが、あれは何だったんだ」 「あ、それは……」 黒猫の氷河に教えてもらったことを、黒猫の氷河に勇気をもらったことを、氷河に告げようとして、だが 瞬はその直前で思いとどまった。 『あれは、臆病なくせに変なところでプライドが高いから、自分から好きだと言いたいと思っているだろうな』 黒猫の氷河の言葉を思い出し、事実をそのまま氷河に告げることは賢明な行為ではないと考え直す。 人間の氷河は、猫の彼より扱いが難しいかもしれない。 瞬は、慎重に言葉を選んで、嘘にはならないように、この数日間にあったことを 彼に語った。 「不思議な猫に会ったの。その猫が、もうすぐ僕に とってもいいことが起こるって予言してくれたんだ。氷河が氷河の大事な秘密を僕に教えてくれるって。小さな頃からの特別の秘密だって。その秘密、僕に教えて」 「それは……」 小さな頃からの氷河の大事な特別の秘密。 黒猫の言っていたことは事実だったらしい。 氷河は、その秘密が何なのか、すぐに思い至ったらしい。 それは 瞬にとって“とってもいいこと”なのかどうかの判断に迷っているように、氷河は すぐには その秘密を口にはしなかった。 だが、氷河は必ず その秘密を教えてくれる。 そう信じて、瞬は氷河の答えを待った。 Fin.
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