瞬の肖像画を完成させた天才肖像画家は、いったん故国に帰り、その後 聖域に向かうことになった。
自分がアテナの聖闘士だという事実を、画家が どう感じ、考え、受け入れるに至ったのかは、余人にはわからない。
ただ画家は、自分の画業が人の命を奪ったのではないと沙織に保証され、その事実に安堵し、喜んでいるようではあった。

「今度は氷河さんを描きに来ます。すべてを愛している瞬さんの目もすごかったですが、一人の人だけを愛している人の目もすごい」
「二度と来るなっ!」
氷河の『オーロラサンダーアターッ』に懲りた様子もなく、希望に燃えて そう告げる天才肖像画家を、氷河が大声で怒鳴りつける。
「そんなことを言っても、聖域に行けば、どうしたって会うのに……」
沙織の やり方に言いたいことがないではないのだが、地上の平和を守るために共に戦う仲間が増えることは嬉しいし、不安が消えて明るくなった画家の表情を見られるようになったことは 更に嬉しい。
「聖域で、また会おうね」
聖域に向かう画家を、瞬は――瞬もまた、明るい笑顔で送り出したのである。
画家は あまり身体を鍛えているようではなかったが、画架座の聖闘士の特異な力を更に強力なものにすれば、彼は十分に聖域の戦力になるに違いなく、それは瞬にも とても喜ばしいことだったから。



画家の残していった瞬の肖像画は、氷河の部屋ではなく、瞬の部屋に飾られることになった。
恋も、友情も、人類愛も、我儘な子供を許す母の愛も――すべての愛情をたたえた瞬の瞳。
ただ一人の人を愛することだけができない瞬の瞳、その眼差し。
その目のあるところでは、氷河は どうしても瞬とナカヨクしにくいらしかった。






Fin.






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