星矢は、結局、その後、三巨頭(ヒルダは既にOGになっている)に謝罪した。 男子のみが投票権を持つ人気投票を サッカー部が行なったのは事実なのだし、たとえ告白ゲームに勝利しても、サッカー部が三巨頭に秘密を握られたままでいることには変わりがない。 その秘密を盾に、また別件でサッカー部が脅されることになる可能性もないとはいえない。 それくらいなら、すべてを白日の下に さらして、グラード学園の全女子生徒に謝ってしまった方が ずっと 精神的負担も軽減されると、星矢は考えたのである。 三巨頭は もしかしたら、星矢が最初から素直に自分の非を認め、彼女等に謝っていたなら、サッカー部を脅すつもりなどなかったのかもしれなかった。 彼女等は、男子のみの人気投票の件を学校側には知らせずにいてくれた。 だが、グラード学園高校の全女子生徒には すべてを知らせ、よりにもよって、女子生徒のみによる男子の人気投票を始めてくれたのである。 『天は人の上に人を作らず、人の下に人を作らず』 もちろん星矢は、そんな人気投票の実施など 嬉しくも何ともなかったが、こればかりは 身から出たサビ、因果応報、自業自得。 星矢は、三巨頭の企画を 黙って耐えるしかなかったのである。 グラード学園全女子生徒300人、持ち点1800点の人気投票の結果は、瞬が1位で1500点弱を獲得、残りの300点強が 見事に ばらばら、瞬の一人勝ち状態だった。 その結果を受けて、星矢は――氷河もサッカー部の者たちも――ある一つの可能性に思い至ったのである。 これは、争い事や いさかい、無用の軋轢を避けようとするグラード学園高校在校生の賢明さが、当人たちも意図せず表出した結果なのではないかという可能性に。 瞬が男子生徒に 可愛いと思われていることも、誰にでも優しい気持ちで接する瞬が 女子生徒に人気があることも、紛う方なき事実なのだろう。 だが、男子による人気投票で 女子ではない瞬が1位になること、女子による人気投票で 男性的魅力は僅少といっていい瞬が1位になることは、男子生徒間、女子生徒間に波風を起こさない最善の結果なのだ。 実際、この投票結果で――ここまで明確に人気が数値化されているというのに――瞬を妬む女子は一人もおらず、瞬をやっかむ男子もまた一人もいなかった。 すべては瞬の特殊性ゆえ。そして、人徳ゆえ。 そういう意味で、二つの人気投票は、実に妥当で平和な結末を見たと言っていいだろう。 ちなみに、20XX年度、グラード学園高校サッカー部は、瞬が『園芸部の活動は、サッカー部に在籍しててもできるから』と言って、サッカー部マネージャーになってくれたことが幸いして、廃部を免れることができた。 廃部どころか。 新入生のみならず、瞬のマネージャー就任の報を聞いた2年3年の男子からも入部希望者が殺到、サッカー部は 一躍 100人超の部員を抱える、グラード学園高校最大の部に躍進した。 ただし、新入部員の中に 真面目に練習をする者は少なく、マネージャーの手伝いをしたがる者が ほとんどで、氷河はマネージャーのヘルパー志願者たちを追い払うために 日々 奮闘している。 はたして、グラード学園高校最大の部員数を誇るサッカー部は、20XX年度の公式戦に 無事出場することができるのか、否か。 グラード学園高校サッカー部の危機的状況は、今も続いている。 Fin.
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