そうして。 瞬が言った通り、時は戻った。 瞬の願いを叶えてくれという、俺の願いは叶ったんだ。 『あなたたちの小宇宙を、光牙へ』 俺たちの時間は、あの時に戻っていた。 俺は、今度は間違えずに、俺の小宇宙を あのガキに届けた。 あの根性なしの甘えたガキは、自分の務めを果たしてくれたらしい。 俺と瞬が こうして生きて動いていられるところを見ると、そうなんだろう。 若い奴等の力を侮るものじゃないな――と、遠い昔に 俺たちに挑まれた黄金聖闘士たちが考えたんじゃないかと思えるようなことを、俺は思った。 いや、だが、それは当然のことだ。 あのガキが、時の神の野望を打ち砕くのは当然だ。 瞬に会えないでいる間、苦しみ、足掻き、大きくなった俺の思いを乗せた小宇宙を、俺は あのガキに送ったんだ。 そして、その小宇宙以上に――瞬と再会し、その心を知り、更に強く大きくなった希望の思いを、俺は あのガキに送ったんだ。 その小宇宙を受け取った あのガキが、サターンごときに負けるわけがない。 時の流れが戻った世界。 瞬が、俺を見て微笑んでいる。 ああ、俺の瞬は なんて強くて美しいんだろう。 薄汚れて くすんでいた世界も、瞬がそこにいるだけで輝いて見える。 この世界は美しい。 希望の光に満ち、輝いている。 もちろん世界は美しい。 瞬が――俺の瞬がそこにいるんだから。 「瞬、憶えているか」 あの棺のような部屋には、二度と行かない。 俺たちのいる世界が 以前と変わらず美しいことに気付いた今、俺は二度と あの部屋に行くことはないだろう。 そう確信しながら 俺が問うと、瞬は俺に答えを返す代わりに、俺に愚痴を言ってきた。 「本当に、氷河は手がかかる。もう離れないでいた方がよさそう」 二人が離れて過ごした長い時間が切ない。 だが、俺たちには まだ時間がある。 神ならぬ身の俺たちに与えられた時間には限りがあるが、だからこそ 俺たちは、永遠の時を このたまゆらに凝縮して、与えられた命を生き続けるんだ。 それは、永遠より永遠。 永遠より長い時だ。 「ずっと 俺の側にいて、俺が道を間違えたら、また叱って、正してくれ」 「そんな甘えたこと言って……!」 俺の図々しい願いに怒った振りをして、瞬が俺を軽く睨んでくる。 俺の瞬は、何をしても可愛い。 俺は 俺の瞬を抱きしめて、可愛い瞬の怒りを 俺の唇で封じたんだ。 光あふれる世界――美しい希望の光に満ちた この世界。 この世界以上に美しい瞬と、二度と離れるものかと、心に誓いながら。 Fin.
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