ぼんやりしていた俺の願いが、はっきりした形になって 俺の胸に根付いたのは その時だった。 氷河への当てつけで、なりたいと思った聖闘士。 瞬さんの隣りに、瞬さんと同等の人間として並び立つために、なりたいと思った聖闘士。 そして、やはり俺が聖闘士になるのは無理なんだと悟って、諦めた聖闘士。 今は、聖闘士になれば、母さんの目を その小宇宙で見えるようにできるかもしれないという希望が、俺に聖闘士になりたいという願いを抱かせている。 母さんだけじゃない。 聖闘士になれば、俺は、多くの人を助け、力づけ、生かすことができる人間になれるかもしれないんだ。 瞬さんが母さんにしてくれたみたいに、瞬さんが俺に希望をくれたみたいに――。 俺に 途轍もない希望と夢をくれた瞬さんは、その上、 「お母様も聖域に住めるように、アテナに頼んであげましょうか。危険だと思うなら、無理にとは言わないけど、オパリオスも お母様が側にいる方が安心できるでしょう?」 とまで言ってくれた。 「でも、母さんには、聖域のためにできるような仕事もないし……」 いくら何でも、そこまで瞬さんの優しさや親切に甘えるわけにはいかない。 だいいち、俺にですら『邪魔だ』『足手まといだ』と言ってくれる氷河が、ほとんど目の見えない母さんに 同じことを言わないはずがない。 そう考えて、俺は瞬さんの親切を遠慮したんだけど――氷河は 瞬さんの提案に反対しなかった。 「離れて暮らしている母親のことを毎日心配していたら、おまえの仕事がおろそかになるだろう」 氷河は そう言って、瞬さんの提案に賛意を示してくれたんだ。 氷河らしく、親切とも素直とも言い難い言葉でだったけど、それでも。 あんまり思いがけなくて ぽかんとしていた俺に、瞬さんが小さく苦笑する。 そして、瞬さんは、更に 思いがけないことを俺に教えてくれた。 「君を聖域に迎えることに許可を出したのは氷河なんだよ。君の お母様の目のことを デミウルゲインさんから聞いたから。本当は――嘘をつけないにしても、お金目当てだと公言する人間を聖域に入れることなんて、許されない」 そんなことを急に言われても――俺にどうすることができただろう。 俺は ますます ぽかんと口を開けて、阿呆みたいに氷河の顔を見詰めてることしかできなかった。 氷河は、『余計なことを言うな』って言うみたいに、瞬さんを睨みつけたけど、瞬さんは氷河に睨まれたって恐くも何ともないわけで。 本音を言えば、(氷河の強さを忘れたわけじゃないんだが)俺も氷河に恐さを感じなくなってきていた。 だから、瞬さんが微笑して、 「氷河は、この世界のすべてのお母さんの味方だから」 って言うのに、 「マザコンなのか?」 と訊き返すこともできたんだ。 その0.001秒後、音がするほど しっかりと(?)、俺は氷河に頭を殴られていた。 |