「復讐を忘れれば、あなたは母に愛される息子でいられるわ。瞬に愛される者でいられる。民を苦しめない王でいられる。でも、復讐に執着し続けるなら、あなたは すべてを失うでしょう。そんなことにはならないわね?」
念を押してくる母に頷いて――氷河は、その日その時から早速、ヒュペルボレイオス国王として 自らが為すべきことを精力的に実行していったのである。
一度 断絶した国交・交易の再開には 雑多な諸事手続きの対応が必要だったが、それは誰もが望んでいたことだったため、すべてが極めて速やかに為されることになった。
飢餓の不安がなくなったので、いつもは冬の前には沈みがちになる国内の空気は 例年になく明るく、試練の季節を直前に控えているにも かかわらず、北の国ヒュペルボレイオスは まるで冬を飛び越して春がやってきたようなあり様になった。


そうして。
ヒュペルボレイオスに本格的な冬が到来する前に、北の大国ヒュペルボレイオスと南の大国エティオピアの関係は旧に復し、両国の友好は以前にも増して深く強いものになったのである。
氷河は瞬のために エティオピア国王をヒュペルボレイオスに招き、手紙でしか やりとりをしたことのなかった兄と弟を対面させ、瞬を喜ばせてやることもできた。

今、北の大国ヒュペルボレイオスの王が抱えている問題は ただ一つ。
弟とヒュペルボレイオス国王の親密な関係を知ったエティオピア国王が、『我が最愛の弟を汚された』と激怒して、事あるごとに氷河への嫌がらせをしてくることだけである。

愛は 憎しみを超えるのか。
愛はすべての憎しみに打ち克つことができるのか。
北の大国ヒュペルボレイオスと南の大国エティオピアは、今また新たな愛の試練に直面していた。






Fin.






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