かくして、聖戦は終わった。 冥府の王ハーデスと 知恵と戦いの女神によって 神話の時代から繰り返されてきた聖戦は、ついに終わったのだが。 「なにぃ !? 聖戦が終わっても、俺と氷河の運命の糸は ぶち切れないままだとぉー !? 」 一輝の怒りは、それからが本番。 聖戦の終結によって、氷河と一輝の戦いは 新たな局面を迎えることになったのである。 敵(?)の息の根を止めるわけはいかない戦い。 これほど戦いにくい戦いはない。 瞬の兄と 瞬の恋人志願者の戦いの第2幕は、 「最愛の弟を、こんな馬鹿野郎に渡すくらいなら、俺は死んだ方がましだっ!」 「瞬と結ばれないなら、俺は死んだ方がましだっ!」 という死ぬ死ぬ詐欺と、 「瞬に けしからん真似をしてみろ。貴様の命を絶つことで、瞬の身を守れるというのなら、その後で俺自身の命が消えることになっても、俺は本望だっ!」 「上等じゃないか。邪魔な貴様を ぶち殺して、瞬を俺のものにし、男の本懐を遂げてやる。俺が死など恐れると思うのかっ!」 自分の命をかけての脅し合いという、実に見苦しい様相を呈することになったのである。 その上、二人の争いには、その都度、聖域のどこかが破壊されるという実害が伴った。 「死ぬ気なんかないくせにさー」 「うむ。あいつ等が、瞬を残して死ねるわけがない」 と言って、心配顔の瞬を慰撫し 落ち着かせるのは星矢と紫龍の役目。 「あんな馬鹿な奴等は無視して、俺たちは平和に静かに生きていこうな、瞬」 「う……うん……」 シベリア仕込みの口封じ技の記憶は 瞬の中にも鮮明に残っているらしく、氷河に出会うたび、瞬は頬を赤らめるようになったのだが、氷河は、瞬の そんな様子に(今のところは)全く気付いていない。 氷河が瞬の その反応に気付く前に、一輝が すかさず氷河に喧嘩を吹っかけていくのだから、それも やむなし。 決して氷河が鈍感なわけではないだろう。 ともあれ、そういう経緯で、神話の時代から繰り返されてきたハーデスとアテナの戦いは、ついに終わったのである。 とはいえ、聖戦が終結したから 聖域が 破壊の危機を免れ得たとは言い難い現況。 聖域のどこかで轟音が響くたび、アテナは今も頭を抱えている。 Fin.
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