瞬ちゃん。
何を泣いているの。
それは、地球の写真ね?
美しい地球。
なぜ それが瞬ちゃんを悲しませるの。
そうね。地球には地図にあるような国境線は どこにもないわね。
なのに、人間は いつも争いばかり。
そして、その争いは 不幸な子供たちを大勢生む。
それが悲しいの?
え? それだけではないの?
そんな世界を変える力を持っていない自分が悲しい?

まあ、瞬ちゃんたら――瞬ちゃんったら。
瞬ちゃんが泣き虫で、どんな力も持っていないなんて、そんなことがあるものですか。
いいえ、そうね。
瞬ちゃんが泣き虫なのは事実かもしれないけど、それは 瞬ちゃんが何の力も持っていないということとは、全く別のことよ。
別でしょう?
悲しい時には大人だって泣くし、つらい時や、痛い思いをした時や――それから、とっても嬉しいことがあった時や、幸せな時にも、人は涙を流す。
人が涙を流すのは、その人の心が生きているっていう証拠で、それ以外の何かではないのよ。
泣き虫だから、瞬ちゃんが弱いなんてことはないの。
瞬ちゃんは、他の人より うんと感受性が豊かなんだわ。
そして、優しいから、瞬ちゃんは、この世界の あらゆることのために涙を流さずにいられないだけ。

ええ、そう。
瞬ちゃんが強くないなんて、そんなことがあるものですか。
いったい瞬ちゃんは、強さというものを、どういうものだと思っているの。
いじめられたら、いじめ返すこと?
暴力で虐げられたら、それ以上の暴力で反撃すること?
それとも、泣かないこと?
そんなふうに思っているのなら、それは間違いよ。
瞬ちゃんは、今でも十分に強い。
瞬ちゃんは、この世界から 不幸で悲しい子供たちがいなくなればいいと願っているんでしょう?
そんなふうに自分以外の人の幸福を願えるんですもの。
瞬ちゃんは、とても強い子よ。そして、優しい子。

大抵の人間は、自分の幸福しか考えない。
大抵の人間は、自分が救われることしか考えないものなの。
自分以外の人を救おうとする人もいるけど、それはまず、自分の幸福や安全を確保してから。
それができていない人間には、他者を救う前に自分を救うべきだと考える風潮さえある。
おかしな話だわ。
誰かを救いたい、誰かを守りたいという気持ちは、自分の安全や幸福とは関わりなく、自然に生まれてくるものなのに。
でも、それが現実。
大抵の人間は、自分第一。
でも、瞬ちゃんはそうじゃない。
瞬ちゃんは、自分が救われたいとは考えていないのでしょう?

私には、瞬ちゃんが強い子だということがわかっているわ。
瞬ちゃんが 誰より優しくて、清らかな心を持っていることも知っている。
私は、瞬ちゃんが特別な子だということを知っているのよ。
瞬ちゃんは、人に優しくするのに、見返りを求めない。
自己満足という見返りすら求めずに、人の幸福を願う。

瞬ちゃんに、いいことを教えてあげるわ。
瞬ちゃんはね、これから とても強くなって――今より強くなって、たくさんの人を救って、たくさんの人を幸福にするの。
世界中のほとんどの人の命を救い、その幸福を守るの。
ほんとよ。
こんなことで 嘘をついたって、何にもならない。

その顔は、信じていない顔ね。
でも、信じられなくても、本当にそうなのだから、信じなさい。
え? 瞬ちゃんは、そんなすごいスーパーマンになれなくてもいいの?
つらい思いをしている子供たちを一人でも救うことができたら?
まあ、瞬ちゃんったら、欲がないのね。
でも、私の言うことは事実よ。
瞬ちゃんは いずれ、この地球上に生きている すべての人間の命を救い、その幸福を守る存在になるの。

そんな 戸惑ったような顔をして……それでも、やっぱり 信じられない?
そうね。
なら、とっておきの秘密を一つ、教えてあげる。
瞬ちゃんは、もうすぐ、瞬ちゃんの運命の人に出会うの。
二人。
一人は、瞬ちゃんに、瞬ちゃんが強くなって戦うことの理由を与えてくれる人。
瞬ちゃんが進む道の道しるべになる人よ。
もう一人は、瞬ちゃんが 強い瞬ちゃんでいるために、瞬ちゃんの心を支えてくれる人。

どんな人かって?
会えば わかるわ。
瞬ちゃんの道しるべになる人は――もしかしたら 瞬ちゃんは、その人と自分では住む世界が違うと思うかもしれないわね。
もう一人の、瞬ちゃんの心を支えてくれる人は、瞬ちゃんがこれまで見たことがないくらい 眩しい色の髪をしているわ。
そして、空色の瞳。
会えば、一目でわかるから。
え? ええ、そうよ、私みたいな。
瞬ちゃんには、私の姿が見えているの?
そう。ぼんやり見えているの。
でも、その金髪の子は――。
ええ、そうなの。
瞬ちゃんが これから出会う、瞬ちゃんの運命の人は、瞬ちゃんと あまり歳の違わない子供。大人の人じゃないの。
だって、その子は、ずうっと瞬ちゃんと一緒に――死ぬ時まで、ずうっと一緒に生きていくのだから。






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