氷点






太陽の光がなければ決して打ち砕くことのできない嘆きの壁。
地上を死の世界にすることを目論む冥府の王は、この壁の向こうにいる。
彼を倒さなければ、人間たちが営む地上世界は終わりを告げることになるだろう。
だが、この壁を打ち砕くことさえできれば、ハーデスを倒すための道筋さえ作っておけば、希望の光を宿す瞳で まっすぐに未来を見詰める あの若き聖闘士たちが、必ず地上世界を守ってくれるに違いない――。

そう言い出したのは――否、誰が言い出したのかということは問題ではなかった。
黄金聖闘士たちの心は一つだったから。
彼等は皆、同じ思いを抱いていたから。
それぞれ異なる価値観を持ち、それぞれ異なった道を辿って、今 ここに集った12人の男たちと12の黄金聖衣。
それらが今 一つになり、一つの大きな力を生もうとしている。

不安はなかった。
仲間たちが共に在るのだから。
そんなふうに――まるで、あの青銅聖闘士たちのようなことを考えている自分に、ミロは 僅かに奇異の念を抱いてしまったのである。
仲間?
12人の黄金聖闘士たちは、そんな言葉で くくることのできる男たちだったろうか。
あの青銅聖闘士たちのように?

いずれにしても、今 俺が笑って死んでいけるのは 青銅聖闘士たち――あの二人のおかげなのかもしれない。
唇の端に 確かに笑みと呼べるものを刻みながら、蠍座スコーピオンのミロは そう思った。
その人生の最期の一瞬に。






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