星の子学園に奇妙なボランティアが来ているという話を 瞬が聞いたのは、3月の半ば。 小中高大、大抵の学校が春休みに入った時期だった。 星の子学園は常時 ボランティアを募集しているし、生徒学生が 春夏冬の休暇を利用して、児童養護施設のボランティアに応募してくるのは よくあること、特段 珍しいことではない。 が、星矢の幼馴染みの美穂は、そのボランティアについて、『どこが奇妙というわけでもないんだけど奇妙に感じられるところが奇妙なの』と、星矢に語ったらしい。 瞬は、その奇妙なボランティア氏より 星矢の話の方が奇妙だと思った。 「一定の期間 ボランティアをすれば単位をくれる高校や大学もあるらしいし、ボランティアの経験ってのは就職活動で有利に働くとかで、学生のボランティア応募自体は 結構あることらしいんだけどさあ」 星矢が しばしば星の子学園に出向いて、学園の子供たちとサッカーに興じているのは、広い城戸邸の庭に その手の球技ができるような場所がないからである。 つまり ボランティアではなかったのだが、その間、腕白な男の子たちが 大人しく(?)サッカーに夢中でいてくれるので、星矢の訪問は 星の子学園の子供たちにも職員たちにも 大いに歓迎されていた。 そんな非ボランティア活動を終えて 城戸邸に帰還した星矢が持ち帰った土産話に、瞬は 僅かに眉根を寄せたのである。 「単位だの就職活動だの、ボランティアって、そういう理由でするものなの?」 「ま、本来の趣旨からは外れてるけど、でも、そういう事情がある方が、ボランティアを受け入れる側も 気楽っちゃ気楽なとこがあるんだと。でも、噂のボランティアはそういうのじゃないらしいんだ。ボランティア活動証明書の発行も希望してないとかでさ。真面目だし、熱心だし、ガキ共の面倒も 普通にちゃんとしてくれてるらしいんだけど」 「なら、真の意味で、困っている人たちの力になりたいと考えている人なんじゃないの?」 「でも、美穂ちゃんたちは違和感を覚えるんだと」 奇妙なボランティアの説明をしている星矢が、その説明内容を よくわかっていない様子なのは、星矢に 奇妙なボランティアの説明をした美穂自身が、現況を明瞭に把握できていないせいらしい。 そんな説明を受ける瞬にも、当然 奇妙なボランティアの実像は よくわからなかった。 「十代の、いいとこの お嬢さんらしいんだけど 彼女を奇妙に感じる訳がわからなくて、美穂ちゃんたちも戸惑ってるらしい。でさ、おまえ、今度 星の子学園に行く時、その お嬢さんボランティアを ちょっと注意して観察してみてくれよ。美穂ちゃん、俺のいい加減な観察じゃ 頼りにならないって言うんだ」 「それは構わないけど……」 もともと 瞬は、平時には、週に2、3度のペースで星の子学園に通っている。 だから 星の子学園に行くこと自体は構わないのだが、善意で 無報酬で奉仕活動に務めてくれている人を“観察”する行為は、その人に対して 失礼なことのような気がする――あまり 気が進まない。 だが、美穂たちが感じる違和感というのは気になる。 美穂がそんなことを言い出すのは、これが初めてのことで、となれば それは、彼女が 子供たちへの悪影響を懸念してのことであるに違いないのだ。 美穂の懸念を取り除くために、瞬は 美穂の要請を受けることにしたのだった。 |