さて、北の国のお城には、そんな氷河王子を 国の大臣たちより心配している人間が 一人いました。 瞬という名の、氷河王子より3つ年下の男の子。 氷河王子とは兄弟のように一緒に育った、氷河王子の幼馴染み。 瞬は、北の国の王家が 国の民に解放しているお城の庭に捨てられていた捨て子の みなしごでした。 氷河王子は、3歳の時、お城の庭に捨てられていた赤ちゃんの瞬を見付けたのです。 とても可愛らしい赤ちゃんの瞬を見付けた氷河王子は 大得意で、赤ちゃんの瞬を自分の宝物にしました。 亡き王妃様は、氷河王子のお手柄を 大層褒めて、氷河王子が見付けてきた赤ちゃんの瞬を 氷河王子と一緒に育てることにしたのです。 優しい王妃様は、みなしごの瞬を それはそれは慈しんで育ててくれました。 その優しい王妃様が亡くなったのです。 悲しいのは瞬も同じでした。 悲しくて悲しくて――悲しかったからこそ、瞬は、優しかった王妃様のために、氷河王子に元気になってもらいたかったのです。 王妃様は氷河王子が立派で幸福な王様になることを願っていました。 その願いを叶えることが、みなしごである自分を優しく慈しんでくださった王妃様への恩返しになるだろうと、瞬は思ったのです。 そのためには、王妃様に生き返ってもらうのが いちばんなのは考えるまでもないことでした。 王妃様を生き返らせるために差し出す命は、別に 氷河王子のお妃様になれるような若い娘のものでなくてもいいはずです。 瞬は、冥府の王ハーデスに自分の命を差し出して、氷河王子のお母様を生き返らせてもらおうと思いました。 そのために、瞬は神殿に行って、 「僕なんかの命でも、王妃様の命の代償になるでしょうか」 と、予言の神様に尋ねたのです。 「冥府の王ハーデスは美しい姿と清らかな魂を持った人間が大好きだから、そなたなら ハーデスの気に入るだろう」 というのが、予言の神様から瞬に下った神託。 ハーデスが、身分や血筋や性別に こだわりを持っていない神様であることを確かめて安心した瞬は、ためらうことなく決意したのです。 死んだ者たちの国に行って、自分の命を差し出し、優しかった王妃様を生き返らせてもらえるよう、冥府の王ハーデスにお願いすることを。 瞬は、お城には戻らず、神託を受けた その足で、冥界に下っていきました。 子供の頃から 片時も離れず いつも一緒だった氷河王子に 二度と会うことができないのは悲しくて寂しかったのですが、すべては 氷河王子のためなのです。 自分の命は、氷河王子に見付けてもらえなかったら 儚く消えてしまっていたかもしれない命。 王妃様に育ててもらえなかったら、瞬は とうの昔に飢えてしんでしまっていたでしょう。 瞬に、ためらう理由はありませんでした。 |