「ナターシャがいなくなって駄目になるのは、氷河の方だと思っていたのに……」
どこかで声が聞こえた。
「瞬は、氷河を守るために ワダツミを消滅させたそうだから……」
仲間たちの声――星矢と紫龍の声。
バルゴの瞬は強いのに、彼等は瞬の弱さを案じていた。
皆が幼かった頃、アンドロメダ島に送られる“泣き虫瞬ちゃん”の身を案じていた時のように、彼等はバルゴの瞬の心を案じていた。
バルゴの瞬は強いのに――。

「瞬は……ナターシャより氷河を選んでしまったのか」
「そう、瞬は思ってしまったんだろう」
「でも、それは――」
「それは正しい選択だ。だが、正しいからこそ、悲しく苦しい……」
そうだよ、紫龍。
正しいから、悲しい。
正しいから、苦しいんだ。

氷河……氷河、ごめんなさい……。
僕は、氷河とナターシャちゃんを守るために、二人の側にいたのに。
黄金聖闘士の力が、こんなに脆弱なものだったなんて。
僕は どうしたんだろう。
悲しみも、僕の非力への憤りも、声にすることができない。
目が見えない。
まるで、涙が僕の目を壊してしまったみたいだ。
僕は目を開けているのに、光が見えないんだ。
世界が淀んで見える。
僕は どうなってしまったんだろう。

「瞬の瞳を濁らせてなるか」
氷河の声が聞こえた。






【next】