瞬と、瞬の兄一輝と星矢、紫龍、氷河は、いわゆる幼馴染みという間柄。
不遇な子供には冷酷な世界の片隅にある 小さな貧しい村で、彼等五人は生まれ育った。
彼等が聖域に赴くことにしたのは、聖域を目指す多くの他の少年たちと同じように、彼等が貧しくて 何も持っていなかったから。
地位や身分どころか、明日 飢え死にしないという保証さえ、彼等は持っていなかったのだ。

星矢、紫龍、一輝、瞬は、戦いや病や事故のせいで早くに両親を亡くしていた。
にもかかわらず 彼等が彼等の生まれた貧しい村で懸命に 命を繋いでいたのは、彼等の仲間である氷河には母がいたから――だった。
氷河の母は、彼女の息子を深く愛し、息子の幼馴染みである瞬たちにも優しかった。
もともと身体の弱かった氷河の母が亡くなった時、彼等は 彼等の生まれた村に しがみついている理由を失ったのである。

地上世界は争いに満ちている。
いずれかの国の王や領主の軍隊の兵になることができれば、たとえ“家”を持たない流浪の人間でも 最低限の権利を与えられ、一人の人間として遇してもらうことはできる。
しかし、彼等が 彼等を守ってくれていた唯一の大人を失った時、五人の中で最年長の一輝でも、軍兵として雇ってもらうには歳が足りなさ過ぎた。
軍隊を持つ国の王や領主が求めているのは、すぐにでも戦いに身を投じることのできる、文字通り“即戦力”。
たとえ歳をごまかして、どこかの国の軍隊に 潜り込むことができたとしても、その国が他国との戦に負けて国が滅びたら、特定の国の軍兵は 結局は すべてを失う。
どれほど強力な軍隊も、永遠に勝ち続けることはできないのだ。
軍隊を増強しようとして 兵を募っている国は、結局のところ 平和を望んでいるわけではないのである。

瞬たちが望んでいるのは“平和”だった。
戦いさえなければ、田畑が軍馬に荒らされることはない。
畑を持っていない子供でも、地主に労働力を提供して対価を得ることができる。
だというのに、争いが満ちている この世界は、幼い孤児たちの そんな ささやかな望みさえ叶えてくれないのだ。
戦のせいで収穫が保証されない状況では、地主たちも 人を雇ってまで 多くの収穫を得ようとは考えない。
実り豊かな農地など、略奪の標的にされるだけ。
そんなものを持っていることは、むしろ危険なのだ。
打ち捨てられ荒れ果てた農地は、飢えに苦しむ人間を量産していた。

そんなふうに、大人でさえ、希望を持って生きていくことのできない世界。
しかも、貧しく小さな村。
そこで、彼等は、彼等の理解者であり保護者でもあった ただ一人の大人を失った。
彼等は もはや、聖域に頼るしかなかったのである。
聖域に行って、聖闘士になるための修行を続けている限り、女神アテナの加護によって、人は 飢え死にだけはせずに済むから。






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