瞬のスマートフォンに とんでもない写真が送られてきたのは、夏から秋への衣替えが終わり、街頭では半袖の人間を あまり見掛けなくなった時季。 ナターシャが長袖の服を着ていても 奇異の目で見られることがなくなった、秋の ある日の宵の口だった。 写真の送り主は、氷河の店の常連客である某女史。 ほとんど強奪するように教えさせられたアドレスに、『なに、なに、なに !? 瞬せんせ、これって いったいどういうことなんですかっ !? 』というメッセージと共に送られてきたのは、紫色の壁に飾られた氷河の写真の写真だった。 写真の下には“当店 NО.1”と記された金色のプレート。 その左右にあるのは、どうやら“当店 NО.2”と “当店 NО.3”の写真の右端と左端らしい。 メール着信から3分後、某女史から追伸で、『ちなみに、“当店”というのは、東の“LOVE”、西の“ROMANCE”と並び称される超有名ホストクラブ、歌舞伎町の“LOVE”本店です』というメールが届く。 『これって いったいどういうことなんですか』と問われても、どういうことなのか わからない瞬には、女史からのメールに答えようがなかったのである。 瞬にできたのは、スマホの画面に映し出されている写真を見て、ひたすら呆然としていることだけ。 そんな瞬を我にかえらせてくれたのは、瞬の手にあるものを横から覗き込んで、そこに素敵なものを見付けたナターシャの興奮した声だった。 「パパだ! マーマ、これ、なんばーわんって読むんだヨネ。パパがいちばん!」 「そ……そうだね」 「パパ、お澄ましさんダヨー」 写真の氷河は、黒のシングルのスーツ着用。見た目は いつも通りの仏頂面――もとい、無表情。 ナターシャには、だが、その写真の氷河の無表情が、いつもの無表情とは違うことがわかるらしい。 平生の瞬なら ナターシャの慧眼に感心するところなのだが、今の瞬は そんなこともできないほど混乱していた。 「氷河が 女の人に いちばん人気があるんだって」 瞬の説明を聞いて、ナターシャが首をかしげる。 そうして ナターシャは、瞬の言葉の意味をナターシャなりに理解して、氷河の写真の写真に 実にナターシャらしいコメントを付してきた。 「パパは、ナターシャに大人気ダヨ!」 「そ……そうだね。ナターシャちゃんにだけ 大人気だったら よかったのにね」 「パパは、マーマにも大人気だヨネ」 「も……もちろん、そうだよ」 と、ナターシャに笑顔で答えるのに、瞬は ひどく苦労したのである。 苦労して作ったのに――その笑顔が 思い切り引きつっていることは、瞬自身にも わかっていた。 |