秋と共に深まった謎が、やがて来る冬が降らせる雪に埋もれてしまうのではないか。 そして、瞬の憂いは永遠に消え去ることはない。 星矢は、その事態だけは何としても回避したかったのである。 回避はしたいが、障害物の回避という行為は 星矢が最も不得意とする行為。 そのために動いたのは、星矢ではなく紫龍の方だった。 その日の夕刻。 「“詮索するな”の手紙を瞬に送りつけたのは おまえだろう。昨日、おまえが あのメモ用紙を あの部屋の窓辺に置くのを見た」 紫龍が氷河に そう尋ねたのは、その場に瞬がいなかったからだった。 氷河が 自分の犯行(?)を あっさり認めたのも、おそらく その場に瞬がいなかったから。 氷河の自供を引き出すために、紫龍は 瞬のいない時と場所を選んで 氷河に尋ねたのだから、それは至極 自然な成り行きだったろう。 「瞬は、手紙の送り主が死んだと思って 悲しんでいるようだったから、また手紙が届けば、瞬が悲しまずに済むだろうと思っただけだ。瞬が沈んでいる姿は見たくない」 「なるほど。で?」 「で? とは?」 更に何らかの答えを求めた紫龍に、氷河が怪訝そうな目を向けてくる。 それは自然な反応なのか、はたまた 作為的行動なのか。 いずれにしても 氷河は、それ以上の何かを語る気はないらしい。 あるいは、他に自供しなければならない余罪はないということなのか。 紫龍は それ以上 氷河を問い詰めるようなことはせず、氷河も それ以上は何も語らずに ラウンジを出ていってしまった。 緊張する必要もないのに緊張して 二人のやり取りを見守っていた星矢は、氷河の退室で 緊張の糸が緩み、全身から力が抜けていくのを、それこそ全身で感じることになったのである。 「何だよ、紫龍。おまえ、氷河が手紙を置くとこ 見てたのか? それなら そうと言ってくれればよかったのに」 “それなら そうと言ってくれれば”、自分は まず間違いなく、子供の頃の手紙も氷河の仕業と決めつけて暴走していただろう。 仲間の暴走を懸念する紫龍の用心も わかるので、紫龍に不満を言う星矢の口調は さほど厳しいものではなかった。 責める口調ではなく、半ば冗談口調。 であればこそ、 「見ていない」 という紫龍の言葉に、星矢は目を剥くことになったのである。 「へ? 見てない? 見てないって、どーゆーことだよ」 「空振り覚悟で、鎌をかけたんだ」 「鎌をかけたぁ !? 誘導尋問だったのかよ?」 「いや。現場を見た事実がないのに、見たことを前提として訊いたんだから、それは誘導尋問というより誤導尋問に類することだろうな」 「んな訂正、いらねーって」 いちいち 細かい訂正を入れてくる紫龍を、片手で ひらひらと退けてから、星矢は改めて大きな溜め息をついた。 「つまり、氷河が出したのは 昨日の手紙だけ。おまえの鎌かけは、半分 当たりで、半分 外れってことか」 「まあ、一応は」 「やっぱ、真犯人は、帰ってなかった90人の中にいたのかなぁ……」 そんな結論なら、真実は瞬に知らせたくない。 憂鬱そうな顔になった星矢を見やり、紫龍は、聖闘士である星矢にも見てとれないほど薄い微笑を目許に刻んだ。 見切り発車で暴走する星矢は、だが、“決して進んではならない道”の見極めだけはついている。 瞬を悲しませるくらいなら、はっきりさせないでおいた方がいいと考える優しさを備えている。 星矢のためにも、もちろん瞬のためにも、ここはどうあっても 事態を大団円に持っていかなければならないのだ。 「さて、どうしたものか」 口の中で呟いて、長髪の探偵は 遠い秋の空を眺めやった。 |