「氷河や星矢や紫龍や一輝兄さんが僕の仲間だってことは、ナターシャちゃんも知っているでしょう? サンタさんにも、同じようにサンタさんの仲間が 何人もいるの。それでね、僕と氷河のためにナターシャちゃんがプレゼントを我慢するっていう話を聞いたサンタさんたちが、ナターシャちゃんの優しい気持ちを すごく喜んで、日本担当のサンタさんの代わりに、ロシア担当のサンタさんが ナターシャちゃんにプレゼントしてくれることになったんだって。もちろん、日本担当のサンタさん分は、ちゃんと別に ためておいてくれるって」
という理屈で、瞬はナターシャを説得したらしい。
サンタクロースが一人ぽっちではなく、何人も仲間がいることは、ナターシャには嬉しい事実だったようで、サンタクロース複数人説を、ナターシャは素直に受け入れてくれたのだそうだった。

「ナターシャ、サンタさんに、プレゼント お願いしてもイイノ?」
「もちろんだよ。僕と氷河以外に 欲しいものがあったら、教えてくれる?」
「お姫様のようなドレスでも、部屋いっぱいの薔薇の花でも いいぞ。いっそ、ナターシャのために子供サイズの黄金聖衣でも作ってもらうか」
調子に乗って、氷河は そんなことまで言ったらしい。


「その割りに、氷河の奴、浮かない顔してるぞ。ブラック・ルシアンを頼んだら、ホワイト・ルシアンが出てきてさー」
氷河の店から 星矢が瞬のスマホに電話を入れたのは、氷河が瞬に“何とかして”もらったところまでの報告しか、星矢が受けていなかったからだった。

「紫龍なんか、アラスカをオーダーしたのに、出てきたのはマイアミだぜ。他の客のオーダーは間違えないように、今、紫龍が つきっきりで見張っている」
スマホから、瞬の『迷惑かけて ごめんね』という謝罪の言葉が返ってくる。
「氷河は、ナターシャちゃんのプレゼントのリクエストがショックだったんだよ」
「プレゼントのリクエストがショック……って、ナターシャは何をリクエストしたんだよ?」
「それが……パパとマーマ以外なら、うんとカッコいいボーイフレンドが欲しい――って。今朝、ナターシャちゃんにリクエストされてから、氷河はずっと落ち込んだままなんだ」
「は……」

どうして、氷河の周囲には、こんなに面白いことばかりが起こるのだろう。
事情を聞いて、星矢は まず そう思ったのである。
これほど見事に墓穴を掘る男を、星矢は氷河の他に知らなかった。

「それは 氷河の自業自得で、我慢できずに 藪を突いて蛇を出したのは氷河自身だし、いい機会だから、しばらく放っておいて反省させようと思ってたんだけど、仕事に支障が出るようなら、放っておくわけにはいかないね。知らせてくれて、ありがとう。僕が何とかするよ」
「何とか――って、どう 何とかすんだよ」
「とりあえず、今夜は――『ナターシャちゃんが、プレゼントのリクエストを変えることにしたようだ』って、氷河に言っておいてくれる?」
「あ、その手があったか」

氷河に どれほど 堪え性がなく、氷河が どれほど墓穴掘りが上手くても、瞬がついていれば、氷河は“何とか”なるだろう。
運命の12月24日まで、あと数日。
今の星矢にできることは、ただ、ナターシャが 氷河と瞬の娘として過ごす初めてのクリスマスが無事に終わるよう、神に祈ることだけだった。






Fin.






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