「ど……どういうことだよ……」 「今、こちらに来るのが あの子のパパとマーマだということだろうな……」 そう言いながら、そう言う紫龍の口振りは半信半疑の人間のそれ。 星矢より常識を備え、星矢より堅実派で現実主義者でもある紫龍にこそ、それは 荒唐無稽な事実(?)であるに違いなかった。 「なんで、そんなことになるんだよ! 瞬は……いくら可愛くても、瞬は男だぞ!」 氷河がいくら瞬を好きでも、氷河の恋が成就することは あり得ない。 だから 氷河は馬鹿なのだと、星矢は思っていた。 そんなふうに馬鹿な氷河だから、自分は氷河の友だちでいるのだと思っていたのである。 実らぬ恋で叶わぬ恋。 それでも、氷河なら、その馬鹿の一念を一生 貫き通すだろう。 だから なおさら、自分は氷河の友だちでいてやりたいと思っていた。 恋は実らなくても、友が不作でなかったら、少しは氷河の人生にも救いがあるだろうと、(とりようによっては傲慢なことを)考えていた。 だからこそ、馬鹿の一念を通すどころか、瞬以外の誰かと娘を儲ける氷河などというものが信じ難く許し難いと、星矢は思ったのである。 だというのに。 「あの子のマーマは瞬なんだ。それが どういうことなのかは、2、30年後くらいには わかるだろう」 「ぜ……全然 わけわかんねーけど、俺、何か わくわくしてきた!」 瞬が死なない。 皆でアテナの聖闘士になれる――生き延びることができる。 『ナターシャのパパとマーマと星矢お兄ちゃんと紫龍おじちゃんとイッキニーサンは、アテナの聖闘士ダヨ!』 未来が、すべてナターシャの言っていた通りになると信じるわけではないが、少なくとも ナターシャの知っている未来では、瞬は死なないのだ。 『ナターシャのマーマは すっごく優しいヨ。とっても綺麗で、とっても物知りで、ナターシャにいろんなことを教えてくれる。パパはマーマを大好きなんダヨ!』 生きていれば、この謎が解ける時が、やがて訪れるだろう。 だとしたら――未来が来る時が待ち遠しくてならないではないか。 星矢は、今 初めて、新しい年を迎えたような気がしたのである。 未来には、常に希望がある。 他には何もなくても、希望だけはあるのだ。 「しゅーん、今年も よろしくなーっ!」 “こっちに来ル”瞬に向かって、星矢は、宙を蹴るように勢いよく駆け出した。 今年も よろしくお願いたします
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