大人になった君たちは、まもなく、この庭をあとにする。
僕は、おそらくもう二度と君たちに会うことはないだろう。
僕は、君たちの未来が光にあふれていることを信じているよ。
楽しかった。
僕は、この庭で君たちに出会うたび――その笑顔に出会うたび、その涙を見るたび、その怒りを ぶつけられるたび――両親のいない君たちの父のような、母のような、そんな気持ちになっていたよ。
時には 友のように――勝手に、僕は君たちの仲間なのだと思っている。

君たちは 決して恵まれた境遇の中で生きていたわけではなかった。
だが、そのことで恨み言をいう者は、君たちの中には一人もいなかった。
君たちは、いつも前だけを見詰めていた。
いつも仲間のことを思い、仲間のために強くなることを望んでいた。
君たちは、どんなに純粋で強く健気だったことか。


僕が生を受けたのは、ここよりずっと北にある、大きな山の裾野だった。
人の姿を見ることは滅多になく、頻繁に訪ねてきてくれるのは風や雨だけ。
そんな場所で20年。
“寂しい”という感情が どんなものなのかを知るすべもなく、自分に心というものがあることすら知らずに、僕は20年の時を生きた。
てっきり 僕は そこで一生を終えるのだと思っていたのに、ある日、長く親しんだ土から引き離され、この家の庭に植え替えられた時には、いったい我が身に何が起こったのかと戸惑ったよ。
それから更に 70と数年。
僕は、もう100年近い時間を生きてきた。

僕たち白樺の木の平均寿命は70年と言われている。
僕の命は、もうすぐ終わるんだ。
僕にはもう、新しい芽を生む力も、新しい根を張る力もない。
まもなく僕は倒れ、朽ちていくだろう。

僕は、君たちに出会えて本当に嬉しかった。
100年。
その100年の最後の10年を、僕が倒れることなく生きてこれたのは――倒れるどころか、生まれたばかりの若木のようにわくわくしながら、快い緊張の中で生きていられたのは――君たちに出会えたからだ。
君たちの成長を見守っていたいと思ったから。
君たちの行く末を見届けたいと思ったから。

僕にとっては、君たちこそが、生まれたばかりの若木だった。
君たちの輝く瞳が眩しかった。
君たちの悲しみ、悔しさ、怒りに触れるたび、それが 我が事のように悲しく、悔しく、腹立たしかった。
今 僕が幸福な気持ちで 自分の命を終えられるのは、君たちの前途が明るい光に満ちていることが、僕に確信できているからだ。

僕は 幸せだった。
今も、とても幸せだ。
星矢くん、瞬くん、紫龍くん、氷河くん、一輝くん。
さようなら。
心から 君たちの幸せを祈っているよ。






Fin.






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