「シアワセって なぁに?」 って、マーマに訊いたことがある。 パパが、『ナターシャには 幸せな思い出以外は必要ない』って、マーマに言ったんだっテ。 パパがマーマに そう言ったって、マーマが とっても嬉しそうに ナターシャに教えてくれたから、パパが そう言ったことが、どうしてマーマは そんなに嬉しいんだろうって、ナターシャは ちょっと不思議だったんダヨ。 だから、ナターシャは、 「シアワセって なぁに? ドウシテ、マーマは そんなに嬉しそうナノ?」 って、マーマに訊いたの。 ナターシャは、パパに会ってから ずっと自分のことをシアワセなんだって思ってたけど、でも ナターシャは、シアワセっていうのが何なのか、ほんとは あんまりよく知らなかった。 シアワセが何なのか よく知らないのに、自分をシアワセなんだって思ってるのは 変なことだよネ? デモ、あの頃、ナターシャは本当に、自分のことを とってもシアワセな女の子なんだって思ってたんダヨ。 パパはカッコよくて優しくて、パパがナターシャのパパだってことが、ナターシャはすごく嬉しかったし、マーマは綺麗で物知りで、ナターシャの知らないことを いっぱいナターシャに教えてくれた。 ナターシャは、パパとマーマのことが大好きだった。 今も、大好きダヨ。 「シアワセって なぁに?」 って、ナターシャが マーマに訊いたのは、寒い冬が終わりかけて、光が丘公園に 桃の花が咲き始めた頃。 光が丘公園っていうのは、ナターシャとナターシャのパパとマーマの おうちの近くにある、すごく大きな公園のことダヨ。 ブランコや滑り台のある ちびっこ広場があって、裸足で 駆けっこのできる芝生広場があって、じゃぶじゃぶ池のある けやき広場もあって、すごく広くて楽しいの。 ナターシャは、パパとマーマと おべんと作って、春には桜のお花見に、夏にはじゃぶじゃぶ池で水遊びに、秋には 紅葉狩りに、光が丘公園に出掛けていった。 冬に雪が降った日には、三人で雪だるまを作ったヨ。 赤いナンテンの実を目にした雪うさぎをいっぱい 作ったこともある。 お花見に行った時は、桜の木に 毛虫がいっぱいいるのを見て、びっくりしたこともあった。 黒いトゲトゲの毛虫が どんなふうに綺麗なチョウチョになるのかは、公園の中にある図書館の昆虫図鑑で調べたんダヨ。 「シアワセって なぁに?」 ナターシャが マーマに訊いたのは、薄桃色の小さくて可愛い花が 少しだけ咲いてる桃の木の下。 まだ寒い日が続いてたけど、あの日は いいお天気で、ちょっと ぽかぽかしてて、それでパパが急に、おべんと作って 公園に桃の花を見に行こうって言い出したノ。 ナターシャは、もちろん すぐに大賛成したよ。 パパとマーマと一緒に 公園にオデカケするのが、ナターシャは大好きだったカラ。 お洋服屋さんや ケーキ屋さんに お買い物に行くのも好きだったケド、公園に行くのは もっと好きだった。 パパとマーマとナターシャが一緒にオデカケすると、公園で 日向ぼっこや お散歩してる人たちが ナターシャたちを見て、にこにこしてくれるの。 知らない人たちなのに、ご挨拶もしてくれるの。 可愛いお嬢ちゃん。 カッコいいパパと、綺麗なママ。 今日は一緒にピクニック? いいわねぇ――って。 ナターシャは、いろんな人がたくさんいる 光が丘公園で、ナターシャのパパより カッコいいパパと一緒の子を見たことがないし、ナターシャのマーマより綺麗なママと一緒の子を見たこともない。 パパとマーマは、ナターシャの ご自慢。 ナターシャが そう言うと、マーマは、 「僕たちの ご自慢は、ナターシャちゃんだよ」 って、言ってくれた。 パパは、 「この公園で、ナターシャが いちばん可愛い女の子だ」 って。 パパとマーマに そんなふうに言ってもらえるのが、ナターシャは とっても嬉しかった。 いつまでも パパとマーマの ご自慢でいたいって思ったヨ。 今も ナターシャは、パパとマーマの ご自慢カナ? |