パパとマーマが世界の平和を守るために戦うのは、みんなにシアワセでいてほしいからなんだって。 “平和”と“幸せ”は違うものだけど、世界が平和だと、シアワセな人が増えるんだって。 みんなに大好きな人が増えて、大好きな人と一緒にいられる人が増えて、それで、たくさんの人がシアワセになる。 デモ、世界が平和じゃないと、人は、大好きな人が減るんだって。 敵が増えて、嫌いな人が増えて、憎む相手が増えて、恨む相手が増えて、誰かを大好きって感じる心が消えて、シアワセな人が どんどん減っていくんだって。 ナターシャ、初めて知ったヨ。 デモネ。 デモ、その戦いでパパやマーマが死んじゃったら、ナターシャが悲しいヨって言ったら、 「それでも、ナターシャちゃんが 氷河と僕のことを大好きでいてくれたら、僕も氷河もナターシャちゃんも幸せでいられるんだよ」 って、マーマは言った。 ナターシャ、マーマの言ってることが、よく ワカラナかったノ。 ケド、マーマが間違ったコトを言うはずないカラ、ソウナノカナって、ナターシャ、思った。 パパとマーマがいなくなっても、ナターシャがパパとマーマを大好きなままでいたら、ナターシャはシアワセなナターシャでいられるのカナって。 半分くらい、ほんとにソウナノカナ? って、疑いながら思った。 ナターシャが半分くらいしか信じられないコトを、ダケド、マーマは すっかり信じてるみたいだった。 マーマは、そういう目をしてた。 「そしてね、ナターシャちゃん。たとえ 氷河や僕が戦いで死んでも、ナターシャちゃんは 僕や氷河を倒した人を憎んじゃ駄目だよ。その人に仕返ししようとか、同じ目に会わせてやろうとか、そういうことを考えちゃ駄目。僕は、それで失敗した」 マーマの目は いつのまにか、すごく悲しそうで つらそうになってて、デモ、ナターシャ、そのことより、マーマが失敗したってことに驚いちゃったんダヨ。 だって、マーマは、とっても強くて優しくて、それから 正しいんダヨ。 パパは いつも、「瞬の言う通りにしておけば、間違いはない」って言ってる。 星矢お兄ちゃんも紫龍おじちゃんも、「瞬の言うことを ちゃんと聞いていれば、ナターシャは立派な人間になれる」って言ってる。 「もし氷河と瞬が違うことを言ったら、瞬が言うことの方を聞くんだぞ」って。 「“好き”と“信じる”は分けて考えなきゃならない」って。 ナターシャ、「ウン」って答えたヨ。 だって、パパも、「その通りだ」って言ったんだもの。 それは、マーマが いつも正しくて、間違わなくて、失敗しないってことダヨネ? だから、ナターシャ、 「マーマでも失敗することがあるの?」 って訊いたノ。 マーマは 何だか すごく悲しそうに、 「失敗しない人はいないんだよ」 って言った。 「神でも 失敗することはある。人間なら、なおさら」 「神様でも?」 「うん」 「アテナでも?」 「アテナも、昔は よく失敗してたよ」 「エエーッ !! 」 ナターシャ、ほんとにほんとに びっくりしたヨ! だって、マーマとアテナが失敗するなんて――ナターシャ、そんなの、想像できなかった。 パパはね、時々 失敗するんダヨ。 時々 お寝坊するし、時々 お片付けを忘れるし、時々 ナターシャが頼んだのと違う絵本を買ってきたりもする。 ナターシャを甘やかしすぎたりもする(紫龍おじちゃんが、そう言ってタ)。 けど、ナターシャは マーマが失敗するのを見たことないヨ。 マーマは いつもカンペキなんダヨ。 ナターシャ、そう思ってたノニ。 ナノニ、マーマは 首を横に振った。 「そんなことはないよ。失敗は誰でもする。もちろん、僕も。大事なのは、失敗を繰り返さないこと。失敗の原因を確かめて、二度と 同じ失敗を繰り返さないようにすることなんだ。それは そんなに難しいことじゃない。石に躓いて転んだら、そこに石があることを忘れなければいい」 「……それなら、ナターシャにもできるカナ?」 ちょっと自信はなかったんだけど、ナターシャ、マーマに そう言ったんダヨ。 マーマは、ナターシャならできるって言ってくれた。 そして、ナターシャは、ナターシャの失敗だけじゃなく、マーマの失敗からもマナブことができるんダッテ。 |