強いられた眠りは短かった。
目覚めると、僕は、こちらの世界に戻っていた。
次代の12神の一員の選抜が始まる世界に。

次代の12神候補は、コンピュータによって選ばれた100名の子供。
ほぼ全員が十代の少年少女。
「君たちには、これから、この選抜施設で 1年間、集団生活を送ってもらう」
12神選抜官の代表は、大講堂の壇上で そう言った。
といっても、壇上の その人の姿を直接見ている12神候補者は ほとんどいなくて――僕も、自分の席に置かれたモニター画面の方を見ていたんだけど。

「君たちは これまで、それぞれの出身地区のエリート――あらゆることでトップだった者たちだ。ここに集っている100名は全員、ほぼ同等の才能と適性を備えている。ここで初めて、“人に劣る”ということを経験する者も出てくるだろう。これまで経験したことのない敗北というものを知り、劣等感を養う者が出てくるかもしれない。君たちの心の中に、他者の上に立ちたいという欲が生まれることもあるしれない」
感情が感じられず、抑揚もない選抜官代表の声が、なぜか ひどく厳しく重々しく感じられる。

「聡明な君たちのことだから、わかっているとは思うが、欲を持つことが悪いわけではない。この世界を より良いものにしたいと願う心もまた、欲だからだ。12神には、利己的な野心は不要だが、愛他的な欲は必要なんだ。1年間の集団生活の中で、我々 選抜官は、君たちの変化と成長を つぶさに観察する。その上で 不適格と見なされた者は、随時 元の環境に戻ってもらい、別の分野での大成を期待する。言うまでもないが、君たちに この選抜への参加を拒否する権利はない。以上」

モニターに映る選抜官代表は、無個性で 年齢も性別も判然としなかった。
でも、作られたバーチャル映像というわけではなく――むしろ、複数の人間を一人の中に凝縮したせいで平準化されたような……何だろう。
確かに実在するのに、不自然な“何か”。
彼を不気味だと思うのは、僕が 夢の中の世界を知っているからなんだろうか。
個性や力――人と違うことや 人より突出していることに価値があり、高い評価を受け、美徳でもある、争いに満ちた世界を。

僕は、12神なんかに選ばれたくない。
たとえ12神の一人になることで、世界の平和と平等の維持に寄与できるのだとしても――恐い。

選抜施設は 絶海の孤島にあるのか、それとも宇宙空間にあるのか。
100人の12神候補者には、そんなことさえ知らされず、最初のオリエンテーションが終わると、12神候補者たちは それぞれの個室に戻った。
僕は、この現実から逃れるように――この平和な世界を恐いと思いながら、この現実を恐いと思いながら――眠りの中に逃げていったんだ。

そうして 夢が始まる――-僕の もう一つの現実が始まる。






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