ナターシャは、おじちゃんとおばちゃんのおうちで、それから 13回おねむして、13回 おはようをした。
ナターシャ、寂しかったヨ。ほんとは寂しかった。
おじちゃんとおばちゃんは優しかったけど――お洋服はいっぱい買ってくれたし、おやつも、ちゃんと歯をみがくなら ケーキもアイスクリームも好きなものを食べていいって、言ってくれたけど――ナターシャは、パパとマーマに会いたかった。

パパとマーマは、でも、どこかで一生懸命 悪者と戦ってル。
きっと今度の悪者は すごく強い悪者なんだ。
きっと――だから、8月になっても、パパとマーマはナターシャを迎えに来てくれなかった。
ナターシャは我慢したけど――我慢したけど。
もしかしたら、パパとマーマは 強い悪者のせいで怪我をして、ナターシャをお迎えに来れないでいるのかもしれない。
正義の味方だって、負けたり、怪我をしたりすることはある。
死んじゃうことだって あるかもしれない。

こんなに長い間、パパとマーマが ナターシャを お迎えに来てくれないなんて、変ダヨ。
きっと何かあったんダヨ。
おじちゃんとおばちゃんは優しくて、いつまででもずっと このおうちにいていいって言ってくれたケド、ナターシャは パパとマーマを助けに行かなくちゃ。

パパとマーマは、ナターシャを戦いに巻き込みたくないから、ナターシャを遠くに避難させたんだと思う。
きっと おじちゃんとおばちゃんも、ナターシャが危険な目に遭わないように、いつまでも ここにいなさいって言うんだと思う。
でも、ナターシャがパパとマーマを助けにいかないと、パパとマーマは、ずっと危険なままなんダヨ。

だから、ナターシャ、調べたの。
センダイの場所とトーキョーの場所。
ナターシャは、路線図の見方を知ってるんダヨ。
日本のどこにいたって、“ノボリ方面”っていうのに乗れば トーキョーに行けることも知ってる。
ナターシャは小さいから、お金を払わなくても電車に乗れるはず。
おじちゃんとおばちゃんは、危ないから行っちゃダメって言うと思うカラ、ナターシャがパパとマーマを助けに行くことは おじちゃんとおばちゃんには秘密。
でも、それだと トッキュウケンとシテイケンは買えないから、ナターシャが乗るのは普通のカクエキテイシャ。
ノボリ方面のカクエキテイシャの電車を何度か乗り換えていけば トーキョーに着く。

決行の日、ナターシャは おばちゃんがびっくりするくらい いっぱい朝ごはんを食べて、お仕事に行く おじちゃんのお見送りするために お庭に出る振りをして、おじちゃんとおばちゃんの家を抜け出した。
おじちゃんとおばちゃんの おうちの いちばん近くの駅は、自動改札を通らずに 駅員さんが切符を見てくれるところを、駅員さんに見付からないように通り抜けた。
電車に乗っちゃえば もう、こっちのものダヨ!

電車のシャリョーとシャリョーの間に隠れて、最初の大きな駅まで行った。
そこで1回目の乗り換え。
オトナが一緒でないと 迷子だと思われるかもしれないカラ、ナターシャはずっとパパとマーマと一緒の振りをしたヨ。
オトナの人に『ママはどこ?』って訊かれた時は、『パパとマーマは離れた席にいるヨ』って答えた。
『ナターシャは今、冒険中なんだヨ』って。
『パパとマーマのところに戻りなさい』って言われた時は、『ハーイ』って言って、隣りのシャリョーに移動した。

ナターシャの乗った電車はどれも、トーキョーの電車と違って、四人で向かい合って座る席になってたカラ、隠れんぼしやすかった。
ナターシャは、できるだけ端っこの席に座って、誰かに見付かりそうになったら、席を移動したり、お手洗いに行く振りをした。
最初の駅以外は 改札は通らずに、センダイからフクシマ、コオリヤマ、クロイソ、それから ウエノ。
ナターシャの乗る電車は どれも とってもゆっくりで、ごっとんごっとん。

ナターシャ、段々、おなかが空いてきて、おなか ぺこぺこで死にそうな気分になったヨ。
乗り換えの駅で お水をがぶがぶ飲んだけど、お水じゃ おなかいっぱいにならない。
ウエノまで来た時は、ナターシャ、ほっとしたヨ。
ウエノは、ナターシャ、パパとマーマと来たことがあった。
大きな動物園のある駅ダヨ。
来たことのある駅なのに、ウエノ駅は とっても広くて 迷子になってドーシヨーって思ってタラ、ナターシャ、駅員さんに呼びとめられちゃったノ。
名前を聞かれたカラ、
「ナターシャダヨ」
って答えた。

「大人の人は一緒じゃないの? 迷子なら、ママを呼び出してあげるから、駅員室においで」
って言われて、ナターシャ、大ピンチ。
やっと知ってる駅まで来たのに、センダイに送り返されたら、ナターシャの苦労が みんな ミズノアワダヨ。
ダカラ、ナターシャ、駅員さんに手を握られる前に、
「あ、パパだ!」
って 大きな声で言って、人のいっぱいいる方に走って逃げたんダヨ。

駅員さんは追いかけてこなかった。
駅員さんは、ナターシャが迷子でなくなったと思ったんダネ。
ナターシャは 最初から迷子じゃなかったんだケド、説明すると長くなるからショーリャク。
時間の無駄使いを避けるために、パパは いつもそうしてるんダヨ。
それはパパの思い遣りなんだっテ。
ナターシャも、パパの真似して、思い遣りスル。

電車の乗り継ぎは トーキョーについてからの方がメンドーだったヨ。
JRと私鉄と地下鉄を乗り継ぎするには 改札を通らなきゃならなかったカラ。
ナターシャは電車代を払わなくていい子供だカラ、堂々と通り抜けたケド。
トーキョーの駅の改札は、駅員さんが一人しかいないカラ、小さなナターシャには あんまり気付かないノ。






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