ナターシャがすっかり元気になって、光が丘公園のターザンロープで30回転も平気でできるようになった頃、センダイの青葉山のおじちゃんとおばちゃんから お人形が届いた。
夢の中で ナターシャがおばちゃんから買ってもらった、マーマとおんなじ色の髪と パパとおんなじ色の目をした、抱っこのできるお人形。
ナターシャのおもちゃ箱も、いつのまにか、ナターシャのお部屋の元の場所に戻ってた。
お人形にはカードが添えられてイテ、マーマがナターシャに読んでくれた。
『ナターシャちゃんのパパとママになりたかった』って。
『ナターシャちゃんの幸せを願っています』って。

「ナターシャはシアワセだよ。パパとマーマと一緒だもん!」
ナターシャが言うと、マーマは なんでだか つらそうに笑って、パパは ナターシャの頭を撫でてくれた。
ナターシャ、急に、センダイの青葉山のおじちゃんとおばちゃんと歩いた青葉山公園のことや、おばちゃんが『大丈夫よ、ナターシャちゃん。大丈夫。私たちが必ず ナターシャちゃんを守ってあげるから』って言って、ナターシャをぎゅうっと抱きしめてくれたことを思い出したノ。

「夢の中でネ、おじちゃんとおばちゃんはナターシャに とっても優しかったヨ」
「そう……。おじちゃんとおばちゃんのおうちの子になってもいいって思うくらい?」
「パパとマーマがいなかったら……。デモ、ナターシャには パパとマーマがいるカラ、おじちゃんとおばちゃんのおうちの子にはなれないヨ」
おじちゃんは優しかった。
おばちゃんは優しかった。
青葉山公園は綺麗だった。
デモ、センダイには、ナターシャのパパとマーマはいないんダヨ。

『パパとマーマがいなかったら』
ナターシャが そう言うと、マーマは、
「ナターシャちゃんが 二人いたらよかったんだけど……」
って、呟くみたいに言った。
うん。
ナターシャが もう一人いたら、もう一人のナターシャは きっと、センダイの青葉山のおじちゃんとおばちゃんの おうちの子になったと思うヨ。
だけど、ナターシャは一人しかいない。
たった一人のナターシャは、ナターシャのパパとマーマと一緒にいたいんダヨ。
危険でも、普通に幸せでなくても、ナターシャは ナターシャのパパとマーマと一緒にいたいんダヨ。

ナターシャの気持ち、パパはわかってくれてるみたいだった。
パパは お人形を抱っこしてるナターシャを、お人形ごと、パパのお膝の上に座らせてくれた。
「もうすぐ、仙台の おじちゃんとおばちゃんのいるところで、七夕のお祭りがあるの。綺麗な飾りが いっぱい飾られる、大きな お祭りだよ。行ってみようか?」
マーマが 小さな声で、ナターシャに訊いてくる。

青葉山のおばちゃんが言ってた、8月のタナバタ様。
綺麗な飾りが いっぱい飾られる 大きな お祭りは見てみたかったケド、ナターシャ、なんでだか、何となく、センダイのタナバタ様には行かない方がいいと思ったの。
行ってみたいケド、行かない方がいいって。

「行カナイ」
ナターシャが そう答えると、マーマはパパのお膝の上のナターシャを じっと見詰めて、それから ナターシャには見えないパパのお顔を じっと見詰めて、
「そう……そうだね。その方がいいかもしれないね」
って、言った。

マーマも、ほんとは ちゃんと わかってるんダヨ。
ナターシャの気持ち。
パパの気持ち。
マーマの ほんとの気持ち。
ナターシャは、いつまでも ナターシャのパパとマーマと一緒にいる。






Fin.






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