「ところで……口では文句ばかり言いながら、きっと 頭の中でも文句ばかり言いながら、だが、人に優しくしてばかりいる人――というのは、誰のことだ?」
氷河が 瞬に尋ねてきたのは、超能力者でも挙動不審客でもなくなった“ただの客”が、妙に さっぱりした顔で店を出ていってから。
氷河としては、挙動不審客が 挙動不審でない客になってくれれば、それでよかったのだろうし、まして 超能力者の仲間になどなりたくもなかっただろうから、彼は この結末には満足しているようだった。
氷河は いつも通りの不愛想な顔に戻っている。

そして、瞬も――瞬は、氷河に そう問われて吹き出した。
なぜ笑われるのかが わかっていないらしい氷河に、その人物の正体を教えてくれたのはナターシャだった。
「ナターシャ、知ってるヨ! マーマはパパのことを言ってるんダヨ!」
「なに……?」
ナターシャの自信満々の答えが 完全に想定外だったらしい氷河が 目を剥く。
氷河の その様を見て、瞬は二度 吹き出してしまった。
これほど自覚のない人間も、この世には存在するのだ。
人の考えが読めて何になるだろう。

「ナターシャちゃん、大正解。ナターシャちゃんは超能力者かもしれない」
「ナターシャはチョーノーリョクシャじゃないヨ。ナターシャは、優しい いい子ダヨ。そんなの、パパを見てれば わかるヨ!」
「うん。そうだね」
ナターシャの言う通り、それは氷河を見ていれば わかること。
それが わからない氷河は、自分を あまり熱心に見ていないのだろう。
自分以外の人間ばかりを、氷河は見ているのだ。

シュラが、カウンターの端で、彼の仲間たちと再会した時のためにとってあるはずの笑顔を、(一応)上司である氷河に見られぬよう隠すのに苦心していた。






Fin.






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