私は 私の魅力に絶対の自信がある。 私は美しい。 私を見て、その美しさに心を奪われない人間はいない。 性格がいいとは自分でも思わないし、実際、私は かなり気まぐれで、かなり我儘で、かなり高慢ではあるのだが、それが何だというのだろう。 多くの人間は、私が気まぐれで 我儘で 高慢だから、私を愛するのだ。 私は確信をもって言うが、もし 私が素直で従順で優しい性格だったなら、私の価値は半減するだろう。 もし私が素直で従順で優しい性格だったとしても、私に魅せられる人間の数が減ることはないだろうが、その熱狂の度合いは格段に弱まると思う。 私は、気まぐれで 我儘で 高慢なままでいいのだ。 私ほど美しい者に、人は素直さや従順さなど求めない。 気まぐれで 我儘で 高慢な私だからこそ、すべての人間は、私に跪き、私に惜しみなく愛を注ぐのだ。 気まぐれで 我儘で 高慢な私は、もちろん 博愛主義者ではない。 気に入らない人間は どれほど深い愛情を示されても、どれほど高価な贈り物を贈られても、徹頭徹尾 無視する。 物によっては、贈り物だけ受け取って、贈り主は冷たくあしらうこともあるが、それで恨まれたことはない。 すべては、私の美しさゆえ。 その手の輩は、私に奉仕できるだけでも、そのことを この上ない栄誉と思い、たとえ報いを得られなくても、私への奉仕が許されたことで、深い満足感と幸福感を覚えるらしい。 そう。 すべての人間は、私に仕えるためだけに存在し、私に足蹴にされても、足蹴にされることに歓喜するのだ。 彼等は おそらく、真正のマゾヒストなのだろうな。 そういう意味で、大抵の人間はマゾだ。 私に冷たく無視されることですら、彼等には喜びでしかない。 彼等は、神のごとくに私を崇め、たとえ私に傷付けられても、その痛みに歓喜こそすれ、文句ひとつ言うことはない。 それも これも、私が尋常ならざる美しさの持ち主だから。 人間は皆、私の虜で、私の下僕。 もちろん 私の美しさに恐れを成して、近付くことすらできない小心者もいるが、そんな輩は相手にする価値もないので、私は一顧だにしない。 だが、私は知っている。 私に近付くことすらできない臆病者たちも、私が ちょっと気まぐれを起こして一瞥をくれれば、途端に 私の美しさに屈して、その命と愛のすべてを 私に捧げてくるだろうことを。 私は顔の造作だけでなく、その肢体も美しい。 しなやかで ほっそりした体つき。 動作は敏捷にして華麗。 私は美しいだけでなく、強い。 強いから美しいとも言える。 そんな私を独占したがる者も たまに現れるが、私は鼻であしらう。 当然だろう。 これほどの美しさが、たった 一人の人間に独占されることは、他のすべての人間の不幸というものだ。 私は、誰にも独占されない。 私は、その強さゆえに孤高の存在である。 弱い者たちは、その弱さゆえに群れを成す。 私は そんな無様で哀れな者たちとは違う。 群れることで 自分は孤独ではないと思い(それは 単なる錯覚であることが多いのだが)自分の心の安寧を得ようとする弱者たちと 私とでは、存在の次元、存在のレベルが違うのだ。 私は、私という存在に絶対の自信を持っている――持っていた。 一個の存在としての自分に目覚めた その時から、私は 常に勝者で、常に強者だった。 弱いことは罪だとさえ思っていた。 姿の秀逸より、強さこそが、私を美しい存在にしているのだと信じてもいた。 その私が初めて敗北を喫した相手。 それが瞬だった。 誰もが先を争って、私に跪き、私に愛を捧げるのに、瞬は違った。 初めて瞬に出会った時、私は瞬を気に入り、珍しく 私の方から歩み寄ってやったのに、瞬は それを光栄とは思わなかった。 私に跪くことさえしなかった。 そんなことは初めてで――私のプライドは傷付けられ、私は怒りに燃えた。 私を無視する者は、瞬に会う以前にもいた――瞬以外にもいた。 だが、その者たちは大抵、臆病ゆえに 私に近付けないだけの者たちだった。 私のあまりの美しさに恐れを成し、気後れし、尻込みしているだけ。 私自身も 気に留めなかったし、その手の輩は皆、弱く醜く、好かれても困るような者たちばかりだった。 だが、瞬は そうではなかったんだ。 私は瞬が気に入っていた。 瞬が その身辺に漂わせている空気の清らかさ、温かさ、優しさが、私の感覚を大いに刺激して――私は 瞬に並々ならぬ好意を抱いた。 私は、瞬を愛してさえいたかもしれない。 瞬は、その私の好意を無下にしたのだ。 瞬は 私を愛さなかった。 こんなことがあっていいものだろうか! この私が! この私が愛してやったのに。 瞬と初めて出会った時――私の存在に気付いた瞬が一瞬 優しげな微笑を浮かべただけで 私の上から視線を逸らした時――あの時、私は我が身に いったい何が起きたのかが全く理解できなかった。 やがて理解して、私の愛は 憎しみに似た何かに変わってしまったのだ。 |