そうして迎えた決行の日。
私は2時間ほど時間をかけて 念入りに身だしなみを整え、瞬たちが公園にやってくるのを待った。
今日も暑いが、瞬を私のものにするためなら、そんなものは何でもない。

瞬と金髪馬鹿とナターシャが やってきたのは、1日のうちで最も暑い時刻が過ぎてから。
私は、意味ありげな眼差しで瞬を見詰め、逸る心を抑えて、さりげない足取りで 瞬に近付いていった。

最初に私の登場に気付いたのは、ナターシャだった。
真っ当な美意識を持つナターシャの瞳が、私と再会できた喜びに輝く。
ナターシャは 私の許に駆けてきて、そして、私の前で しゃがみ込んだ。
それは下僕のポーズだ。
私の下僕になりたい者がとるポーズ。

「マーマ、マーマ。ナターシャが 昨日 見たのは、この子ダヨ! すごくキレイでショ。ねえ、とってもとってもキレイでショ!」
「ナターシャ。不用意に触るんじゃない。狂暴な奴だったら、どうするんだ」
金髪馬鹿が何か言っていたが、私に夢中なナターシャは、もちろん金髪馬鹿の余計な口出しなど 聞こうともしない。

瞬。
見たか。
見ているか。
ナターシャは私の虜。
ナターシャを傷付けられたくなければ、私のものになれ。
私のパンチや爪攻撃を受けて 無傷でいられた者は、未だ かつて ただの一人もいないのだ。
私は、私の瞬を脅迫したくはなかったので、猫なで声で そう告げた。
「みゃおん、みゃあ、みゃあ、みゃおーん」
「ほんとだ。ナターシャちゃんが言っていた通り、とっても綺麗なネコちゃんだね」

瞬はやっと、私の魅力に気付いてくれたらしい。
瞬が 私の喉を そっと撫でてくる。
予想通り、優しい感触。
何という心地良さだ。
それだけで 私は もう天国に至る気分なのに、瞬とナターシャの後ろで 金髪馬鹿が 不愉快そうな顔をして突っ立っているのが、更に一層 私の気分をよくする。

私は、この美しさゆえに、常に勝者、常に強者なのだ。
喉をごろごろ鳴らして、私は 勝利の凱歌を上げた。






Fin.






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