昔々、世界の東の果てに、ライトヒル王国という素敵な国がありました。 ライトヒル王国は大きな国で、寝転がると とても気持ちがよくて、ピクニックも楽しめるグラススクエア、どんな子供たちも大喜びするチルドレンスクエア、そこをくぐる すべての人の心が弾むライトアーチ、世界中の鳥が集まってくるバードサンクチュアリ、誰もが優しい気持ちを抱いて散策するフレンドシップロード、あらゆる人の心を癒すレストウッズ――と、観光名所がいっぱい。 ライトヒル王国を見ずに、結構と言うなかれ。 ライトヒル王国は、世界中の人たちが旅行に行きたがる 世界一の観光立国なのです。 ライトヒル王国が観光立国なのは、もちろん 観光資源が多いからです。 でも、それだけではありません。 ライトヒル王国は、とても強い王様に守られていて、とても平和を愛する お妃様がいて、そのため、とても治安がいいのです。 ライトヒル王国では、どんな悪者も乱暴狼藉を働くことができない。 つまり、ライトヒル王国は、世界一 安全で安心できる国なのです。 ある国の観光業の興廃には、その国が平和かどうか、治安がいいか悪いということが、とても重要な問題になります。 皆さんだって、どんなに楽しいアトラクションがあっても、どんなに美しい景色があっても、そこで 悪者に絡まれて 乱暴されたりしたら、『二度と あんなところに遊びに行くもんか！』と思うでしょう？ ライトヒル王国は、そんな心配のいらない、とても平和で安全な国だったのです。 え？ そんな説明はいらない？ 昔々のお話で大事なのは、その国の地理や産業ではなく、その国のお姫様や王子様が美しいかどうかだ、ですって？ 問題は、王様が いい王様なのか悪い王様なのか、お妃様が 本当のお母さんなのか 継母なのかだというんですか？ ええ、それは そうです。 それは そうなんですけど、その国の地理や産業を知っておくことも大事なんですよ。 その国が平和な国かどうかということは、もっともっと大事なことなんです。 でも、そんなに言うなら、皆さんの知りたいことを教えてあげましょう。 世界一の観光立国ライトヒル王国を治めているのは、世界一カッコよくて強い王様と、世界一綺麗で優しいお妃様でした。 そして、二人には、ナターシャ姫という 世界一可愛い お姫様がおりました。 誇大広告は顧客満足度を著しく低下させますから、用心のために言っておきますが、ライトヒル王国の王様が 世界一カッコよくて強いというのは、ナターシャ姫がそう思っているだけで、事実もそうなのかどうかはわかりません。 ナターシャ姫が 世界一可愛いというのは、ライトヒル王国の王様の目には そう見えているというだけで、事実もそうなのかどうかもわかりません。 見る人によっては、ライトヒル王国の王様は世界一ではなく 世界で11番目くらいにカッコいいと思う人もいるかもしれませんし、ナターシャ姫より私の方が ちょっと可愛いんじゃないかな？ と思う人もいるかもしれません。 誰でも、自分が見て聞いて感じて判断したことを真実と思い、そうでないものは疑うものです。 それが普通です。 人は、自分が見て聞いて感じて判断したことは疑いません。 あなたが そうであるように、ナターシャ姫も ライトヒル王国の王様も そうでした。 ナターシャ姫は、自分が見て聞いて感じて判断して、自分のパパであるライトヒル王国の王様を 世界一カッコよくて強い王様だと信じていました。 ナターシャ姫のパパであるライトヒル王国の王様も、自分が見て聞いて感じて判断して、ナターシャ姫を世界一可愛い お姫様だと信じていたのです。 そして、同じように、ライトヒル王国の王様とナターシャ姫は、ライトヒル王国のお妃様を世界一綺麗で優しいお妃様だと信じていました。 ただし、ライトヒル王国のお妃様は、神様から“地上で最も清らかな心を持った人”という保証書を与えられていましたので、ライトヒル王国のお妃様が世界一綺麗で優しいお妃様だということは、王様とナターシャ姫だけが信じていることではなく、客観的普遍的な事実と言っていいでしょう。 けれど。 だからといって、ライトヒル王国のお妃様の周囲に 偽りや誤認がないというわけではありません。 ライトヒル王国のお妃様は、実は お妃様ではありませんでした。 ライトヒル王国の王様は、世界一綺麗で優しい その方を、正式にお妃様として迎えてはいませんでした。 経済的問題や親族の反対、仕事や趣味に打ち込みたいとか 束縛されたくないとか、そういう理由で、正式に結婚していないわけでもなかったのですが、ともかく、ライトヒル王国のお妃様は 本当は ライトヒル王国の お妃様ではありませんでした。 なので、ライトヒル王国の お妃様を“お妃様”と呼ぶのは、便宜上のことです。 けれど、ライトヒル王国の王様と お妃様とナターシャ姫は、深い愛情で結ばれた真実の家族。 世界一カッコよくて強いパパと、世界一綺麗で優しいマーマに愛されて、ナターシャ姫は 世界一 幸せなお姫様でした。 |