気が付くと、瞬は、アンドロメダ島ではなく エティオピアの浜に立っていた。
沖には アンドロメダ島の影さえ見えず、内陸側を仰ぎ見ると、小高い丘の上に 瞬が生まれ育った懐かしいエティオピアの王城がある。
しかし、今 瞬が見たいものは、懐かしい故郷の景色ではなかった。

「氷河! 氷河、どこ !? 」
浜に、白鳥がいない。
聖域は 再び氷河を受け入れることに やぶさかでないと言っていたアテナは、氷河だけを聖域に運んでしまったのか――。
白鳥の姿を求めて浜を駆け出しかけた瞬を、
「瞬」
背後から、氷河の声が呼びとめる。

「氷河!」
安堵して振り返った その場所に、だが、片方の翼を失った白鳥の姿はなかった。
少し気恥ずかしそうな、きまずそうな――後悔と恋の情熱と、自制と優しさと、期待と不安。
ありとあらゆる思いと感情が入り混じった青い瞳を持った青年が、そこに立っていた。
それが誰なのかを知って、瞬は胸がいっぱいになってしまったのである。

「僕を さらいに来た白鳥ほど美しい生き物は この世界に存在しないと思っていたけど、氷河は、白鳥でいた時より綺麗」
「俺は王子でも何でもないが」
「僕だって、お姫様でも何でもないよ」
ペルセウスは その点を誤解しているようだった。
だから、瞬は絶対に彼に助けられるわけにはいなかったのである。

「僕は、どんなところででも 生きていける自信があるんだけど」
「俺もだ」
王城に行くか、聖域に向かうか、二人を知る者のいない未知の場所に行くのがいいのか。
どこに向かうかは これからゆっくり考えて決めることにして、氷河と瞬は、とりあえず互いに互いを抱きしめてみた。






Fin.






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