僕は、あれから一度もナターシャちゃんに会っていない。
ナターシャちゃんは、いったい何者だったのか、今もわからない。

こうして自分の人生を戦い生き続けていれば、いつか時間が 僕をナターシャちゃんの許に連れていってくれるのか、それもわからない。
でも、僕がナターシャちゃんに会いたいと思うのは、もちろん、ナターシャちゃんが 迷っている僕を一度ならず励まし力づけ導いてくれた優しい少女だったからだけど、それとは別に。
多分、それとは別に、ナターシャちゃんが、パパとマーマに幸せを与えられるだけの子供じゃなかったからだと思う。

ナターシャちゃんは きっと、自分の幸せを 自分の手で掴むために、自分の幸せを自分の手で守るために、僕のところに来たんだと思う。
どういう形でなのかはわからないけど、僕が挫けず、強くなって、戦い続けることが、ナターシャちゃんの幸せに繋がっているんだ。


マーマが悲しいと、みんなが悲しい。
マーマが強くならないと、みんなが生きていられない。
マーマが挫けると、みんなが不幸になる――。
ナターシャちゃんは、そう言っていた。
僕とナターシャちゃんに限らず、僕と“みんな”に限らず、どこで誰と誰が どう繋がっているのかなんていうことも大した問題じゃなく、きっと人は みんながみんなと繋がっているんだと思う。

実際、冥界で 僕が戦うことを諦めていたら、地上世界の多くの人たちが不幸なことになっていただろう。
そして、僕が諦めずに戦い続けていられたのは、仲間やアテナ、ナターシャちゃん――みんながいてくれたからだ。
すべての人の幸不幸は、すべての人の幸不幸と繋がっている。

ナターシャちゃん。
不思議な、小さな 女の子。
人の幸せは人がもたらすのだということも、幸せは与えられるのを待っているだけではいけないのだということも 知っていたナターシャちゃん。
幸せを自分の手で掴むために、僕のところにやってきたナターシャちゃん。
ナターシャちゃんを幸せにするために、ナターシャちゃんの幸せを守るために、僕は 今より強くなるよ。

ナターシャちゃんが いったい何者だったのか、いつかきっと その謎が解ける日が来るだろう。
その時を楽しみに、僕は 僕の命を生きていこうと思う。
最近 僕は、ナターシャちゃんが言っていた彼女のパパが誰なのか、とても気になっている。






Fin.






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