僕はアンドロメダ座の聖闘士だった。 母の傲慢の罪を償うため、国の民の命と生活を守るため、我が身を海獣の犠牲として捧げた エティオピアの王女の星座の聖衣を まとう聖闘士。 アンドロメダ座の聖衣を我が身に まとう資格を得るには、アンドメロダ島最大の試練・サクリファイスに挑み、成功させなければならない。 数百年もの間、誰も成功する者がいなかったサクリファイス。 僕はその試練に打ち勝った。 そして、アンドロメダ聖衣を我が物にし、アンドロメダ聖衣に付随する“もの”も、僕のものになった。 アンドロメダの聖衣と共に、インド洋の海底深く眠っていた“それ”。 僕の前のアンドロメダ座の聖闘士がどんな人間だったのかを、僕は知らないけど、彼(彼女)も数百年前、それを見たはず――少なくとも、見る機会はあったと思う。 小宇宙を燃やし、我が身を縛りつけているチェーンを自身の使令として自在に使役できるようになった時、アンドロメダ座の聖闘士の小宇宙とチェーンが海を割り、アンドロメダ座の聖衣が アンドロメダ座の聖闘士の許にやってくる。 その時、僕は、僕の小宇宙とチェーンが作った海底の道の中央に、それがあるのを見た。 聖衣櫃とは違う、真鍮製の、まるで出自を隠すように 装飾が排除された のっぺらぼうの棺大の箱。 僕は それを神話の時代のエティオピア王家の所有に帰するものなのだろうと思った。 だから、アンドロメダ座の聖衣と共にあったのだと。 サクリファイスを乗り越えた時、前代のアンドロメダ座の聖闘士はそれに気付かなかったのか、気付いたが海底から引き揚げることができなかったのか、それとも手をつけなかったのか。 気付いたにもかかわらず 海底から引き揚げることができなかったということはないだろう。 何光年離れた場所であろうと、アンドロメダ座の聖闘士の意のままに動いてくれるネビュラチェーンを、その時、彼(彼女)は 自らの手に握りしめていたんだから。 となれば、箱の存在に気付かなかったのか、気付いても手をつけなかったか。そのいずれか。 あるいは、僕が見付けたものは、代々のアンドロメダ座の聖闘士たちが使ったあとの残滓にすぎなかった――ということも考えられるだろうか。 当初、僕は、僕の前のアンドロメダ座の聖闘士たちが その箱に気付かないはずはないと思ったけど――あとになってから(ハーデスとの聖戦後)、それに 気付かなかったという可能性が最も高いのかもしれない――と思うようになった。 僕が それに気付いたのは、皮肉なことだけど、僕が冥府の王ハーデスの依り代だから――なのかもしれない――と。 地下世界の支配者ハーデスの器だから、海底の地下深く――ほとんど砂に埋まっていたそれに、僕は 気付いたのかもしれない。 すべては謎のままだ。 まるで出自を隠すように装飾を排除された、のっぺらぼうの箱。 成人男性が横たわれるほどの大きさの棺のような箱。 その箱に入っていたのは、蓋を開けた途端に 箱からあふれ出るほどの金粒と宝石類。 宝石の種類や大きさは 秩序なく様々で、中には 鶏卵みたいに大きなサファイアもあった。 金粒は 特段の細工は為されておらず、芸術的考古学的価値はなさそうだったかな。 僕には、それが、子供の神様が 大人に見付からぬように隠しておいた 綺麗な石ころのコレクションに見えた。 |