瞬は、その後、甲家の父親と乙家の息子Yの許に 直接 赴き、クライアントから預かった手紙を届けた。 それを家族を開示するかどうかは、二人に一任した。 氷河が 瞬の仕事の結末を知っているのは、瞬がクライアントから預かった手紙を対象者に届ける場に、氷河が同席したからである。 氷河が、その場に同席したのは、瞬には何の非もないことで、手紙を渡した人間たちに 瞬が責められることがあるのではないかと、それを危惧したからだった。 実際、取り替えられた子供たちが成人していなかったら、その場は修羅場になっていたかもしれない。 だが、二つの家族の間で取り替えられた子供たちは 既に成人し――良くも悪くも、彼等は大人になり――そして、二つの家族には それぞれに家族の絆というものが出来上がっていたのだ。 氷河と瞬は、最終的に、甲家父親と乙家Yから『ありがとう』という言葉を受け取り、後日 二つの家族が対面の場を持ったという報告をもらったのである。 その報告のメールには、『20数年前、亡くなった女性が なぜそんなことをしたのかは、考えないことにします』という追伸が付されていた。 消したいものと 消したくないもの。 忘れたいものと 忘れたくないもの。 相反する二つのものを同時に持つのが 人間である。 人間は 誰もが、その両方を持っている。 そう考えて、氷河と瞬は、デリバー ドットコムと デリート ドットコムを、デリバー&デリート ドットコムという一つの会社に統合することにした。 最初から、それが沙織の狙いだったのだろう。 統合以降、デリバー&デリート ドットコム社は、業績、成長率共に 極めて高い水準で推移している。 氷河は わざわざ瞬の事務所に通う必要がなくなり、生産性もアップ。 氷河は、プライベートでも、二人の住まいを一つに統合したいと 画策を始めている。 死んだと聞かされていた瞬の兄が、実は生きていて、どうにも 氷河と 反りが合わず、あれこれ 悶着が起きることになるのだが、それはまた 別の話である。 Fin.
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