次に 俺がお姉さんに会ったのは――いや、会ったと思ったのは、十二宮戦。天秤宮。
その時、俺は半分 死んでいた。
あれは、俺の人生の中で、実に特異な経験だった。
マーマにアイザック。
俺は それまで、俺を生かすために自分の命をかける人にだけ愛されてきた。
俺を殺して 愛を示そうとする人は、カミュが初めてだった。
俺に『死ね』と言う人。
だから、俺も死ぬしかないと思ったんだ。

俺はいつも、そんなふうに、すぐに捨て鉢になり、投げ遣りになる。
そして、そんな時、必ず救いの手を差しのべてくれる人がいる。
天秤宮でも そうだった。

「氷河。マーマやアイザックは、君のこんな姿を見るために命をかけて、君を守ったんじゃないよ」
死にかけていた俺は、混濁した意識の中、瞬の小宇宙に包まれて、心で瞬に会って――それで、瞬が あの胸のないお姉さんだったことを知ったんだ。
優しくて厳しいお姉さん。
お姉さんが来たら、俺はもう 頑張って生きるしかない。



「瞬……ガキの俺を立ち直らせてくれた あの人は、おまえだったんだな」
カミュを倒してから―― 十二宮での戦いのあと、俺は瞬に訊いたんだ――が。
「え?」
瞬は、憶えていなかった。
あの詐欺師の時とアイザックの時、俺を救ってくれたのは間違いなく瞬だ。
だから、あんなに綺麗なのに、胸がなかったんだ。
だが、瞬は、何も知らなかった。
憶えていないんじゃない。
忘れたんじゃない。
知らなかった。

これは いったいどういうことだ? ――と考えて、俺は気付いた。
天秤宮で死にかけていた俺を救ってくれた瞬は、“お姉さん”じゃなかったことに。
天秤宮で死にかけていた俺を救ってくれた瞬は、俺より年下の十代の瞬。
だけど、昔 シベリアで出会った瞬は、俺よりずっと年上で――年齢不詳だったけど年上で、今の瞬より ずっと年上で――お姉さんは大人だったんだ。






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