事情説明の合間合間に、蘭子は 少なくとも5回は『ごめんなさい』を言った。
『軽い冗談のつもりだったの』と『ナターシャちゃんは、ほんとに よくできた娘よね』を3回は言った。
そして、『自分の望みより、パパの幸せを優先させるなんて』を、しみじみと1回。

ナターシャ一人だけなら、どんな支障もないが、ナターシャと氷河の二人を抱えて帰宅することはできないので、氷河には速やかに目覚めてもらった。
そうして、ナターシャを連れて帰宅。
ナターシャが なかなか目覚めないのは、おそらく彼女が 昨夜 ほとんど眠っていないからだった。
パパの幸せか、ナターシャの幸せか。
その どちらかを選ぶために、ナターシャは夜の半分を使い、パパの幸せを選んだ自分の悲しみを悲しむために、残りの半分を使ったのだ。

『瞬はときめきを感じなくなってしまったのかもしれない』
『ナターシャちゃん、いっそ、うちの子になる?』
氷河も蘭子も、軽いジョークのつもりだった。
だが、相手は、どんなことでも、真面目に、真剣に、一生懸命に取り組むナターシャ。
二つの軽いジョークは、大暴風雨となって、ナターシャの素直で優しい心を翻弄してしまうことになったのだ。






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