「“瞬”が 帰ると決意した途端に、元の場所、元の世界に帰っていく。クロノスは、完全に人間を試して遊んでいるな」
たった今まで 夜のお姫様のいた空間を見やり、紫龍が忌々しげに呟く。
「案外、クロノスも 一人ぽっちで寂しいのかもしれないぜ。クロノスは、他の神々と違って、人間とドンパチ始めることもできねーし」
星矢は、妙に鋭いことを言いながら、カツサンドを摘んだ。

「クロノスは、俺たちになら、どれだけ迷惑をかけてもいいと思い込んでいる節がある」
今回の騒動の元凶である氷河が、自分の軽率を棚に上げてクロノスを非難し、そんな氷河を見て、瞬は嘆息した。
そうしてから、改めて、瞬は苦しく呻くことをしたのである。
「地上世界を守り切れなかった僕たちがいるなんて……」
地上世界を守り切れなかった事実が、地上世界を守り切れなかった聖闘士を、どれほど悲しい存在にするものか。
アテナの聖闘士は、何があっても 希望を捨てず、必ず必ず世界を守り抜かなければならないのだと、瞬は 自身の胸に 強く深く刻みつけたのである。

「パパは、もう少しで、浮気者パパになるところだったヨ」
反省の足りない氷河を責めてくれたのはナターシャだった。
「ナ……ナターシャ、ななななな何を言って……」
瞬は何も言わず、氷河を責めるわけでもないのに――それは氷河も わかっているのに――彼の頬と全身からは血の気が引いていった。

「ごめんなさい。もうしません」
氷河は、自分が罪だと認める事柄に関しては、虚心に反省し、謝ることのできる男である。
彼は、彼にできること――彼がすべきことをした。
自分の犯した罪や愚行を謝罪し、償うことのできる人間は幸福な人間である。






Fin.






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