その姿が完全に俺の視界から消えた時、俺は その場にへなへなとへたり込んで、多分 30分くらいそこで呆然としてた。
俺は、なんて馬鹿なことをしちまったんだ……!

あの綺麗な目をした人が、俺が野球選手になれるかどうか、その鍵を握ってるのに。
あの人なしでは、俺は ただの落ちこぼれ。
みんなの嫌われもの。
社会の最底辺に転がってる、燃えない粗大ゴミだ。

探さなきゃ。
何としても探し出さなきゃ。
俺が立ち上がったのは、それから更に30分が経ってから。
手掛かりは、ナターシャという名前の娘がいること。
すごい美人だってこと。
それから、ナターシャちゃんのパパの名前は、氷河だ。確か。

この光が丘公園に、1日 何万人の人間が遊びに来て、週に何十万人、年に何百万人の人がやってくるのかは知らないが、それでも、その中から、何としても、俺は あの人を探し出さなきゃならない。
あの人を探し出さないことには、俺の人生は 動き出さないんだ。
1年かかろうが 2年かかろうが、必ず探し出す。
探し出すしかない。

そう決意して――俺が頼ったのは、何と警察。
光が丘警察署 光が丘公園地域安全センター。つまり、公園前の交番だ。
俺は、そこに行って、正直に言ったんだ。
野球の硬球を投げてて、女の子にぶつけそうになったこと。
幸い、大事には至らなかったけど、美人ママに仰天して、ろくに謝れなかったこと。
ちゃんと謝りたいけど、どうにかならないか――って。

そしたら、お巡りさんは、ソッコーで、
「ああ、ナターシャちゃんのパパとマーマね」
って。
ナターシャちゃんの美人マーマは、あれだけ目立つんだから当然のことだけど、光が丘公園の超有名人だったんだ。
何年かかっても探し出すつもりだった人が、探すと決めて10分後に見付かっちまった。

平日はパパと二人のことが多いけど(そのパパがまた、超イケメンらしい)、週末は大抵ママも一緒。
ナターシャちゃんち ご一行様は、光が丘公園 ちびっこ広場の超ビッグネームの常連さんということだった。






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