「私、もう、断然、瞬先生の味方。ミワの命を助けてもらったのよ。どっかの偉い官僚サマより、近くの親切な お医者様。カズヒサくんのママの機嫌を取ったって、いいことがあるわけじゃないけど、瞬先生は健康相談にも美容相談にも乗ってくれる。それに 私、光が丘病院のサイトで調べたんだけど、瞬先生って 東大医学部卒で、言っちゃ何だけど、偏差値なら、カズヒサくんのパパより上なのよ」 「そうそう。それに、ナターシャちゃんのパパがいなかったら、私たち、暴走車に直撃されてたのよ。ナターシャちゃんのパパってば 超カッコよくて、目眩いがしそうだったワ。私たち二人を軽々と抱きかかえて――私一人だけでも55キロ近くあるのに!」 ここで、『え? 60キロは軽く超えてるでしょ』と言わないのが、公園ママ友付き合いの鉄則である。 ともあれ、三輪車大破事故によって、光が丘公園ちびっこ広場の形勢は逆転し、今度 ちびっこ広場で仲間外れにされることになったのは、カズヒサくんと彼のママの方だった。 ナターシャ仲間外れ令は、めでたく解除されたのに、だが、瞬たちは、そのせいで、ナターシャ仲間外れ令が有効だった時よりも 居心地が悪くなってしまったのである。 世界一のパパとマーマがいて、自分が仲間外れにされていることに気付きもしないほど、ナターシャの毎日は満ち足りていた。 そして、瞬と氷河は ママ友を必要としていない。 だから、瞬たちは、ナターシャ仲間外れ令によって実害を被ることはなく、ナターシャ仲間外れ令など 一向に気にしていなかった。 しかし、ナターシャ仲間外れ令が カズヒサ仲間外れ令に変わり、カズヒサくんとカズヒサくんのママが 人の群れから外れて ちびっこ広場の端に ぽつんといるようになると、その様に 心苦しさを感じる。 少なくとも 瞬とナターシャは、その様子に胸が痛んだ。 だから――以前はナターシャ仲間外れ令に傷付くことのなかったナターシャ、今はカズヒサ仲間外れ令を知らないナターシャが、寂しそうにしているカズヒサくんに、自分から声を掛ける。 しかし、ナターシャが そうすると、ナターシャがそうした途端に カズヒサくんのママがやってきて、カズヒサくんの腕を掴み、彼を ナターシャから引き剥がして よそに連れていってしまうのだ。 「あんな子と話しちゃ駄目。所詮、下流、下等、底辺の子よ!」 聞こえよがしに、そんなことを言いながら。 |