森の老人の家を追われた私は、これまで以上に 人目を避け、可能な限り人間の住む場所には足を踏み入れないよう注意するようになった。
それでも、森の中に分け入ってくる人間に出会ったり、水を飲むために川岸に下りた際に 人間に見付かったりすることがある。
どこに行っても、私には、恐怖の悲鳴と憎悪、棒やナイフ、時には銃口が突きつけられた。

川に落ちて流されかけている子供を救ってやったのに、岸で子供を受け取った その子の父親が 私に手渡してきた礼が銃弾だったこともある。
その弾は、私の肩を貫通した。
自らの命の危険を冒して命を救ってやった者への報いがこれか。
自分は安全な岸辺から一歩も動かず、川に入ろうともしなかったくせに。
私が いくら醜くても、私の醜さなど、人間の身勝手と冷酷に比べたら、大したものではないと思う。

だが、人間たちが その身勝手と冷酷を当然と思うほど 私が醜いのも、厳然たる事実なのだ。
その事実を悲しく自覚できた時、それまで 当てもなく目的もなかった私の放浪に、一つの目的ができた。
私は、私の創造主に、私をこれほど醜く作った責任を取ってもらうことを考えたのだ。
私の創造主がスイス人で、私のような怪物を作ってしまった罪(!)から逃げるために 故郷に帰ったことを、私は知っていた。
私が言葉を解するとは思ってもいなかった創造主は、俺を見捨てる時 そう言い置いて、私の前から姿を消したのだ。
創造主を探し出し、私を醜く作った責任を取ってもらう。
その目的によって、私の“放浪”は“旅”になった。

そして、数年かけて、私はついに、スイスのジュネーブに帰っていた私の創造主を見付け出したんだ。
私は、私の醜さの代償を払うことを、創造主に迫った。
その頃には 私は、孤独でなくなったなら 自分の醜さの苦痛は癒されるのだと考えるようになっていて、だから 私は創造主に 私の伴侶を作ってくれと頼んだ。
女の人造人間を作って、私に与えてくれ――と。

創造主は、最初のうちは 渋っていた。
私は、私の望みを叶えてくれなければ、創造主の家族に危害を加えると脅し――神よ、許したまえ! ――その脅しに屈して、創造主は私の伴侶を作り始めた。
創造主は、だが、私と私の伴侶によって怪物が増えることを恐れ、最後の最後に、私の伴侶となるはずだった女の身体を壊してしまったんだ。
彼女に命が吹き込まれ、彼女が最初の呼吸をした その瞬間に。

伴侶となるはずだった女を殺された私は、私を作った創造主への復讐を決意し、私が創造主にされたのと同じことを、創造主にしてやった。
創造主の新妻を殺してやったのだ。

私は もはや、神に許しを乞うことさえしなかった。
神が私を救ってくれないことがわかったから。
私は、神によって作られた存在ではないのだ。
神は私に責任を負っていない。
当然、私は、神によって 裁かれることもない。
私の神は、私の創造主――軽率で傲慢で冷酷な あの創造主。
神が私を見ないのは、当然のことなのだ。






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