奇跡の星を守るために、青い星に 神を放った我々は、いったん母星に帰った。
いくら醜悪な害虫といっても、それらが神たちに次々に命を奪われていく様を喜んで眺める悪趣味は、我々にはない。
人間たちが死に絶え、その死骸もすべて細菌に分解されて跡形もなくなった頃に、その結果だけを確認しにくればいい。

そういうわけで、我々が再び青い星にやって来たのは、母星への帰星の1年後。
青い星は相変わらず青く美しかった。
神たちは、首尾よく人間たちを退治してくれたらしい。
我々は、そう思ったんだが。

青く美しい星は、ただ青く美しいだけの星ではなくなっていた。
1年前に(青い星の暦で2000年前ということになる)来た時より、星の夜の側の地表が やけに明るくなっていて――ぴかぴかした光で覆われている。
人工の灯りか、あれは?

神は発展性のない生き物だから、あんなものは作れない。
まさか、人間が滅びていないのか?
あるいは、神でも人間でもない、別の生命体が発生したのか。
我々が放った神たちよりも強大な力を持ち、しかも発展性を持つ知的生命体が?
もし そうなのだとしたら、その生命体は、我々にとって、大きな脅威になり得る存在かもしれない。
我々の敵になり得る存在かもしれない。
もし そうなのだとしたら、迂闊に手出しはできない。
情報を集めて、母星の判断を仰がなければならない。
確認のため、我々は青い星に降り立ってみることにした。


人間の視覚が、我々の姿を捉えられないことはわかっていた。
人間たちが我々の存在を知ったら、彼等は我々を 精神体もしくは意識体とでも呼ぶのだろう。
我々には、もちろん、個としての存在はある。
人間たちの視覚で捉えられるような姿を作ることもできるし、人間たちに触れられるようなものになることもできる。
我々は不定形。定まった形も定まった性質も持たない存在なんだ。
つまり、我々は、何にでもなれる。

我々は、青い星に降り立った。
最初は、人間の目に見える形を持たないままで。
いくつかの大地を観察し、青い星が2000年前同様、人間たちに支配されていることを知った。
我が物顔で、人間たちは、青い星の上に 自分たちの集落を作っていた。

そして、神の気配がない。
まさか、人間とは桁違いに強大な力を持っていた神たちが、逆に人間たちに滅ぼされてしまったのか?
1匹の神は、一瞬間で、100万匹の人間の命を消し去ることができるほどの力を持っていたはず。
その神が、人間たちに淘汰されたと?
にわかには信じ難いことだが、他にどう考えればいいのか――。

我々は、事実を確かめるため、人間と同じ姿をとって、人間に接触し情報収集することにした。
80億ほどいる人間のすべての要素を混ぜて、その平均を出し、子供の姿を装って。
人間は、子供のすることなら、どんなに非常識なことであっても、個体として未熟なのだから仕方がないと、許す傾向があるらしい。
前回 来た時に収集した大雑把な情報だが、そういった傾向は 2000年程度の時間で変わるものでもないだろう。
人間について、この星の 地域ごとの慣習も詳細に調べていない我々が化けるには最適な存在なんだ、子供というものは。
それにしても、人間の身体には 目が二つしかないので(二つもあるせいで、とも言えるが)、世界が奇妙に見える。

我々は、あまり長い間、この姿ではいられない。
我々が作り出す肉体は、人間のそれに比べると脆弱だ。
というか、この青い星は寒いんだ。
我々の故郷の星に比べると、あまりにも気温が低すぎる。

だが、寒いから、この星には水があって青い。
我々の星には――いや、大抵の星には 水がない。
我々の星のように暑かったり、この星より寒かったりして、水が水として存在しない。
この青い星を青い宝石たらしめている水。
他の星にはない水。
水に覆われているから、この星は美しいんだ。

水。
この星の最大の特徴的物質である水は、我々という存在の説明に適しているかもしれない。比喩に最適だ。
高温の環境で、我々は普段は水蒸気のように存在している。
水蒸気でいられる高温の環境に慣れているのに、この寒い星で、無理に 水もしくは氷の姿を作って、人間に接しようとしているから、その行為には苦痛が伴う。そういうことだ。

ともあれ。
人間たちは、なぜ神に滅ぼされなかったのか、その理由だけでも確かめて、次の対応策を講じなくてはならない。
人間は 野蛮な生き物だから、もし我々が異星人だとわかったら、攻撃を仕掛けてくるかもしれない。
だが、我々は、他者を直接 攻撃する術を持たない。
しかし、野蛮な人間とはいえ、子供なら、力も弱いし、自分と違うものに好奇心を抱きこそすれ、攻撃を仕掛けてくることはしないだろう。
もちろん、我々が異星人だということは気付かせぬようにするつもりだが、身の安全を考えて、我々は まず人間の子供に接触することにしたんだ。






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